「どこか昔の人のような芯の強さがある人」メイキャッパーUDA氏が語る俳優・市川実日子の魅力

撮影を終えたUDAさんと実日子さんへインタビュー。複数の時間を行き来するような不思議なストーリーはどのように生まれたのか？ そのビハインドを少しだけ。

今回の「IN THE BACK」では俳優の市川実日子さんを迎え、UDAさんが描き出す、儚さと力強さがゆるやかに交差する世界を紡ぎ出した。撮影のきっかけとなったのは、実日子さんとの会話の中でふとした瞬間に彼女が口にした台湾の映画監督である「エドワード・ヤン」の名前。時代を経ても変わらない情緒や人間味、そして70〜80年代に漂っていた独特の空気感。その揺らぎを今に映し出したい、そんな思いを胸に実日子さんと共に台湾へ飛んだ。

「実日子さんは今を生きる人だけれど、どこか昔の人のような芯の強さを持っていて。今の時代に流されず自分自身をしっかりと持ちながらも、枠を超えて自由に泳いでいるような。そのしなやかさが、かつての時代を生きた女性たちの“強さと奔放さ”を思い出させてくれる気がしました。ただ、撮影準備が進むなかでその両軸をどうなじませたらいいかという課題とぶつかり、エドワード・ヤンの作品を何度か見返していたのですが、その中でまるで時間を飛び越えているような様子に“フラッシュバック”というキーワードが浮かび上がり、それが今回の世界観を導く大きな手がかりになりました。
最初はある映画のシーンをオマージュする方向も考えていましたが、実際にスタイリストの（飯田）珠緒さんが準備してくれた服を合わせたり、カメラマンの荒井（俊哉）さんとロケーションを探しているうちに、もっと自由に時代を行き来する方向性のほうがしっくりくるんじゃないかと思ったんです。映画のフレームに囚われず、自由に複数の時間をまたぐイメージのほうが、実日子さんに合うなと。ひとつの人格に収まらず、時間や場所によって変化する。まるで高速回転する粒子の様な感じ」

今回の撮影ではフォトグラファーと実日子さんの絶妙なコンビネーションのもと、同じ人物の“今”と“かつて”が行き交うような不思議な空気感が生まれた。シャッターが切られるその瞬間ごとに、彼女はフレームのなかで自在に表情を変えていく。

「同じ人なのに、まるで違う時間を生きているような。そのふたつを行き来できるのが実日子さんらしさだと思います。どちらであっても、実日子さん自身が持つ確かな軸としなやかさが、この世界を成立させてくれた。彼女の存在があったからこそ、オマージュを超えたひとつの新しい物語が生まれたと思います」

時間も場所も軽やかに飛び越えながら、どこか懐かしく、そして新しい。そんな“一瞬”を切り取った実日子さんを映し出している。

Profile_UDA（うだ）／大手化粧品会社にてPRやマーケティング、教育、店頭プロモーションなどさまざまな業務に携わり、その後独立。現在は国内外のエディトリアル、コスメティック、ファッションのキャンペーン広告、ショーなどのメイクアップを担当。2021年に日本の季節にフォーカスした初の著書『kesho:化粧』（NORM
AL）を刊行し、話題を集めた。

Profile_市川実日子（いちかわ・みかこ）／『タイムレスメロディ』（2000年）で長編映画デビュー。初の主演映画『blue』（03年）で第24回モスクワ国際映画祭最優秀女優賞を、その後『シン・ゴジラ』（16年）で第40回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。その他数々の映画やドラマに出演。近年の主な出演作には映画『ルート29』（24年）、ドラマ「ホットスポット」（25年）等がある。