メガヒット中の『国宝』は映画→原作小説の順で味わうのがオススメ!【映画ライターよしひろまさみち】

ちょっとした時間があるとき、未見の映画やドラマに手を出したいんだけど、分かんないから好きなのを繰り返し観ちゃう……という方。映画ライターよしひろまさみちが実際に観て偏愛する作品を、本音でおすすめしますよ〜。
よしひろさん、「きのう何観た?」
『国宝』
★★古典芸能にちょいと興味をお持ちの方へ★★
公開するや否や、はちゃめちゃ話題になっている『国宝』。約3時間を、劇中ほぼ50年くらいの時間経過で描ききった超大作です。あたしは吉田修一さんの原作が大好き過ぎて期待して観に行ったんですが、ぶったまげました。あの化け物みたいな長編は、大河ドラマにでもできちゃうだろうに、どうやって3時間にまとめたんだか……と思ってたんですよ。物語自体は全く変わらないんだけど、そもそもの解釈を変えて、ギュギュッと凝縮してるの。ということで、確認のためにおかわり。
原作が「稀代の才能の持ち主2人と彼らをとりまく人々の群像劇」とするなら、映画版は「2人の成長物語」。主人公の喜久雄と俊介の関係にズバッとフォーカスしたことで、3時間にまとめられたんですわ〜。これな、原作が好きな人だとちょいともの足りない。のだけど〜、あんだけの大作小説なので、お読みいただいていない方が多いでしょ。映画を観てから原作を読むと、むしろ歌舞伎はもとより伝統芸能の世界への理解度と関心が深まるっていうお仕立てなんです。なので、まずは映画を観て。で、原作読んで。でで、歌舞伎観に行って!
ここからは個人的なお話なのでスルーでもよかですが、あたくしこの作品には特別な思い入れがありまして。人間国宝として他界した中村吉右衛門さんのことを思い出しちゃったの。実は吉右衛門さん、あたしが人生で初めて個人的に会話をした役者さん(歌手だとシャンソンの若林ケンさんがお初だったのだけど)。高校時代に友人の誘いで歌舞伎にハマり、吉右衛門さんの楽屋に出入りしたという、今じゃありえないゆるい思い出なんですが、あのときの経験があったから古典芸能も現代劇も映画も、「お芝居」が好きになったのよね……とひしひし。ちょっとの興味を最大限に引き出してくださったキーパーソン。『国宝』を観てたら、それを思い出しましてね。映画をご覧になった方が、「あ、歌舞伎って面白いのかも」って興味を深めていただくきっかけになればいいなー、って思っております。
story 上方歌舞伎の花井半二郎(渡辺謙)に才能を見初められ、彼の息子・俊介(横浜流星)とともに育てられた喜久雄(吉沢亮)。ある日、事故にあった半二郎の代役指名をきっかけに、ライバル同士だった彼らの間には決定的な溝が……。
監督:李相日/出演:吉沢亮、横浜流星、渡辺謙、高畑充希、寺島しのぶ、永瀬正敏、三浦貴大、田中泯 ほか/配給:東宝/公開:現在、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中 © 吉田修一/朝日新聞出版 © 2025映画「国宝」製作委員会
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1972年、東京都新宿区生まれ。大学在学中からゲイ雑誌『バディ』編集部で勤め始める。卒業後、音楽誌、情報誌、女性誌などの編集部を経て独立。『sweet』、『otona MUSE』(共に宝島社)で編集・執筆のほか、『an・an』(マガジンハウス)、『家の光』(家の光)、『with』(講談社)、『J:COMマガジン』(J:COM)など多くの媒体で、インタビューやレビュー記事を連載。テレビ、ラジオ、ウェブなどでも映画紹介をするほか、イベントでの解説、MCも。ゴールデングローブ賞国際投票者、日本アカデミー賞会員、日本映画ペンクラブ会員。