【愚か者の身分】映画ファン必見!北村匠海×林裕太×綾野剛のブロマンスに心揺さぶられる130分

NHK連続テレビ小説「あんぱん」での好演や『世界征服やめた』で監督デビューを果たすなど、ボーカルを務める音楽バンド「DISH//」の活動も含めて2025年も大活躍だった北村匠海。彼の最新作にして、出演を熱望したという肝いりの一作『愚か者の身分』が10月24日に劇場公開される。先日開催された第30回釜山国際映画祭では、北村、林裕太、綾野剛の3人がそろってThe Best Actor Award(最優秀俳優賞)を受賞した話題作だ。

SNSで女性を装って男性を“釣り”、言葉巧みに戸籍売買に促す闇ビジネスで生計を立てているタクヤ(北村匠海)と弟分のマモル(林裕太)。光の当たらない世界に身を置きながらも、青春を謳歌していた2人の日常はある日一変する。新宿・歌舞伎町で大金が消えた事件をきっかけに、タクヤがマモルの前から姿を消したのだ。

左から闇バイトに手を染めたタクヤ(演:北村匠海)と弟分のマモル(演:林裕太)。
タクヤの身を案じるマモルの前に、屈強な男たちが現れ――。一方、タクヤをこの道に誘った兄貴分で運び屋の梶谷(綾野剛)は、組織から不可解な依頼を受ける。その荷物とは、ボロボロの状態になったタクヤだった……。組織の命令を全うするか、弟分の命を救うか。逡巡の末、覚悟を決めた梶谷とタクヤによる命がけの逃走劇が始まる。そして、マモルの運命は?

右が裏社会を生きる、運び屋の梶谷(演:綾野剛)。
――というのが『愚か者の身分』の中盤くらいまでのおおよその展開であり、構成としてはタクヤ・マモル・梶谷それぞれの目線による3章仕立てになっている。硬派なタイトルやクライムサスペンスというジャンル、上記のストーリーから観るのに覚悟がいる作品なのでは? と思ってしまう方もいるかもしれない。確かに、裏社会の話ということもあり、いくつかハードな描写は登場するが、本作が重点を置いているのはどん底から抜け出そうとする男たちの命の輝きであり、誰を信じればいいかわからない世界で出会えた兄弟分との心の交流や、絆の温かみだ。ヒューマンドラマとしての“ハート”の部分にこそ、『愚か者の身分』の本質があると言っていい。クライムサスペンスといっても、情け容赦のない攻めたハードボイルドさを突き付けるものではなく、タクヤ・マモル・梶谷を自然と応援したくなるような“エモさ”に比重を置いているため、同ジャンルが苦手な方にも入りやすいはずだ。

その呼び水となっているのが、北村匠海・林裕太・綾野剛のトライアングル。3人がカッコいい芝居ではなく、カッコ悪くてもなんとか生き抜こうとする人情味あふれる芝居に終始しているため、血の通った人物として身近に感じられる。もっといえば、各々に“推せる”魅力が十二分に備わっているのだ。
タクヤは誰にも心を開かないように見えてマモルを弟のようにかわいがり、マモルも心を許して兄のように慕っている。北村が裏社会でも優しさを捨てきれない青年の愛情を絶妙ににじませれば、オーディションで永田琴監督に見いだされた新鋭・林がマモルのまっすぐさを等身大の演技で体現。そして綾野もまた、非情になりきれず、どこか脇が甘くて隙がある梶谷を流石の塩梅で好演(木南晴夏扮する恋人との心温まるファニーなやり取りも、清涼剤のような役割を果たしている)。

左がパパ活女子・希沙良(演:山下美月)。
永田監督の3人を保護者のように見守る温かな目線や空気感も相まって、実に見やすく、観ていると気づかぬうちに慈愛の念が湧いてくるのではないか。どこかブロマンス(男性同士の親密な友情や絆)的なニュアンスが漂っている点も、本作の特色といえるだろう。

ただ、だからといって『愚か者の身分』は決して関係性だけで見せるご都合主義な“軽い”作品にはなっていない。劇中には社会問題となったトー横キッズやパパ活、貧困ビジネスに虐待等々、社会派な要素もきっちりと込められており、さまざまな事情から“そうなってしまった”タクヤ・マモル・梶谷の事情を慮りつつも、「愚か者」たちが犯した罪を罪として目をそらさず見つめている。この真摯な目線があるからこそ、我々観客もスムーズに心を乗せて見届けられ、心地よい余韻の残るラストシーンにしっかりとカタルシスを得られるのだろう。

『愚か者の身分』10月24日(金) 全国公開
配給:THE SEVEN ショウゲート
©2025映画「愚か者の身分」製作委員会
出演:北村匠海、林 裕太、山下美月、矢本悠馬、木南晴夏、綾野 剛
プロデューサー:森井 輝 監督:永田 琴 脚本:向井康介
原作:西尾 潤「愚か者の身分」(徳間文庫)
主題歌:tuki.「人生讃歌」
製作:映画「愚か者の身分」製作委員会
製作幹事:THE SEVEN
PG-12/130分
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