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【ネタバレあり】「入れ替わってる⁉」からの他人の体で生きる悲哀。映画『君の顔では泣けない』は感涙必至

『君の顔では泣けない』製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ/公開:11月14日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー ©2025「君の顔では泣けない」製作委員会

そして、本作の“発明”といえるのが、性自認(自分の性別をどのように認識しているか)の変化を細やかに描いている点だ。坂平の中身は水村のため、性自認=心の性としては女性になる。しかしからだは男性であるため、そこにギャップが生じていく。しかも、本来の自分のからだではない(心の入れ物が別のからだになっているようなイメージだろうか)。こうした状況になったとき、どんな心持ちになるのか――。

 

『君の顔では泣けない』は一種のシミュレーション映画としても機能しており、序盤から坂平と水村が恋愛観やセックス等について赤裸々にトークするシーンが多く見られる。異性愛者である2人が、恋愛対象ではない相手とキスやセックスといった恋愛に紐づいた行為をする際の違和感についても言及されており、これまでの“入れ替わりもの”でないがしろにされてきた、ナイーブな部分にまで踏み込んでいるのだ。

 

この字面だけだと生々しく思えてしまうかもしれないが、変にごまかしたり仰々しく描かず、あくまで自然なこととして淡々と処理していくあたりに、作り手の確固たる意志が感じられる。個人的には、大人のからだに子どもの脳を移植された女性の成長過程をつづり、エマ・ストーンがアカデミー賞主演女優賞に輝いた『哀れなるものたち』を思い出し、大いにうならされた。つまり『君の顔では泣けない』は、シチュエーションに対する「きっとこうなるはず」の解像度が抜群に高く、我々観客を部外者として置き去りにしない。

『君の顔では泣けない』製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ/公開:11月14日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー ©2025「君の顔では泣けない」製作委員会

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1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て2020年に独立。オフィシャルライター/インタビュアーとして「First Love 初恋」『シン・仮面ライダ ー』『Cloud クラウド』『正体』『ガンニバル』『チェンソーマン』『イクサガミ』などに携わるほか、『市子』『52ヘルツのクジラたち』ほかで杉咲花氏のオフィシャルインタビュー、中村倫也氏や横浜流星氏のファンクラブコンテンツにおける聞き手を担当。装苑、WOWOWなどで連載中。スターキャットのTV番組「シネマPICK UP」ナビゲーターを担当。

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