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よしひろまさみち

2025年ベスト級大傑作!1960年代の「性別適合手術」をめぐる裁判を描いた映画『ブルーボーイ事件』

★傑作好きの皆様へ★

頭おかしいといわれてもおかしくない数の映像作品を観ていても、まごうことなき傑作、と思う作品は、年に1〜2作。多くても5作くらいしかないもんで。今年公開の傑作はほぼ出揃ったかな……と思っていた初秋、ガツーンときましたわ。『ブルーボーイ事件』。公開されるまで黙ってないといけないこともあったのでしんみりしておりましたが、公開スクリーンが激減し始めたのでパワープッシュします。


1965年、性移行に関するあらゆること(身体的、戸籍など)を変えず、女性装で売春をするブルーボーイと呼ばれる人たちがおりました。そんなある日、彼女らの性移行手術やホルモン投与をしていた婦人科医が逮捕・起訴。弁護士の狩野は証人として医師の世話になっていたブルーボーイたちに証言台に立つように求め……というところからお話が始まります。

 

本当にあった事件をもとにしているとは! という驚きと、当時の生き生きした当事者のライフスタイルにも驚き、びっくり2乗。これな、この映画のもとになった事件の裁判記録から着想を得ただけあって、あたしもテレビや本でしか知らなかった当時の性的マイノリティの人たちの生の声がグッサグサぶっ刺さったんですよ。特に「20歳過ぎたらみんな自殺だわね」っていうセリフ、トランスウーマンに限らずマジだったんすよ。いや、あたしも20歳くらいのころに二丁目に出入りするようになって、そりゃもう楽しかったんですが、飲みにいらしている諸先輩方からは、「あたしら隠花植物なんだから、目立たずひっそり」とかこういった絶望の言葉を幾度となく聞いており(ちなみに30年ちょい前の話ですが、ブルーボーイ事件の元ネタ資料にもこういうのがあった、と監督からうかがいました)。

 

映画の舞台は60年代で、あたしが聞いたのは90年代初頭。時代は変わって今では、自分の個性を大事にすることが幸福への一歩で、その幸福への道は誰かが妨げちゃダメっていうのがよきこと、と、ようやく変わってきたけど……いや、変わってない人もまだ多いし、それで幸せになれない人もいるよね、とこの映画を見たら気づいていただけるはずなんですわ。しかもですわ、劇中のトランスウーマンを演じているのは、中川未悠さんを含めほぼ全員が当事者。実話がベースのフィクションの中にちゃんとリアリティがあるのよ〜。こんな映画、そうそう出てこない。というか、マジ早く劇場行って!

主人公サチとパートナーの篤彦。篤彦さんがむちゃくちゃ優しくていいのよ。

弁護士の狩野さん。裁判中にトランスジェンダーのことを猛勉強して挑みますが、ちょっと付け焼き刃なところも当時のリアルでよき!

『ブルーボーイ事件』公式

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よしひろまさみち/映画ライター

よしひろまさみち/映画ライター

1972年、東京都新宿区生まれ。大学在学中からゲイ雑誌『バディ』編集部で勤め始める。卒業後、音楽誌、情報誌、女性誌などの編集部を経て独立。『sweet』、『otona MUSE』(共に宝島社)で編集・執筆のほか、『an・an』(マガジンハウス)、『家の光』(家の光)、『with』(講談社)、『J:COMマガジン』(J:COM)など多くの媒体で、インタビューやレビュー記事を連載。テレビ、ラジオ、ウェブなどでも映画紹介をするほか、イベントでの解説、MCも。ゴールデングローブ賞国際投票者、日本アカデミー賞会員、日本映画ペンクラブ会員。

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