4月19日公開映画『異人たち』はあの日本名作のリメイク! クレア・フォイが感じた人生の教訓とは
大林宣彦監督の『異人たちとの夏』(1988年)ってご覧になった? 両親を早く亡くし、妻子とも別れた孤独なシナリオライターの中年男性が、ひょんなことから在りし日の両親と再会し、それと同時に現れた若い女性との恋を展開させるというファンタジー。奇妙な設定だけど、誰もが経験する近しい人との別れによる心の傷を癒やしていく旅路を描いた傑作です。これをなんとイギリスの鬼才、『さざなみ』のアンドリュー・ヘイ監督がリメイクしたのが『異人たち』。主人公の設定をゲイに変えたことで、孤独だけでなく、生きているうちに打ち明けられなかった心の内への贖罪を求める美しい人間ドラマに仕上がりました。幽霊として現れる主人公アダムの母を、『ザ・クラウン』で知られるクレア・フォイが演じています。
「脚本を読んだときに感じたのは、みんな親の子であり、子の親になる可能性を持っているということ。この関係性を理解するのは難しいことだし、一生かけて分かっていくものだとも思います。でも、アダムの母親を演じるにあたっては、監督に会うまでどうすればいいか分かりませんでした。彼女は監督の個人的な思いを盛り込んで書かれていたので、彼と母親についてのディスカッションをしたことで、ようやく幽霊となって出てくる私と父親のキャラクターの意味が理解できました」
彼女が演じた母は、アダムとの再会を喜びつつも、死別後にゲイとして生きてきたアダムを簡単には受け入れられずに混乱。クレアは「私も子の親なので、何も言わずに過ごすことはよくない、ということを学びました」と振り返る。
「人生は短過ぎて、言いたいことを言わないのはもったいない。それが誰かの気持ちを傷つけるかもしれないし、聞いてもらえないかもしれないと感じても、言ってみるべきだと思うんです。言ったことで誰かに違う視点で物事を考えたり、あなたの言葉を聞いたりする機会を与えるのです。最も痛ましいことは、その言葉が聞かれないことだと思います。本作はこれを観た人がそれぞれ、自分の人生や自分が失った人、言えなかったことや取り逃がしたチャンスなどを見つめ直すきっかけになる作品。この“きっかけ”はすごく簡単に指の間からこぼれ落ち、心に穴をあける、ということを知る作品でもあります。感情的な空白を埋めることはたやすいことではないけれど、この作品で少しでもその手伝いができるんじゃないかと思うんです」
cooking:ETSUKO ICHISE / photograph:KEIICHI SUTO / styling & text:HIROKO NAKADA
otona MUSE 2024年5月号より