【アカデミー賞直前集中連載】3/3
最終回は、ジョン・カビラさんの
個人的ドハマリ映画をご紹介
『生中継!第94回アカデミー賞授賞式』
今年もWOWOWにて独占放送されますよ!
LA時間で3月27日に開催されるアカデミー賞授賞式(日本時間では28日)。今から結果が気になるところですが、そのへんのところ、長年授賞式の中継番組で案内役を務めているジョン・カビラさんに、映画ライターのよしひろまさみちが話を聞いちゃいました。最終回は、カビラさんが個人的に思い入れのある作品について!
地味にすごい作品もあります
よしひろ(以下よ)地味なところですが、3部門で候補入りしている、6月に日本公開予定の『FLEE フリー』は異例ですよね。
ジョン・カビラ(以下カ)前代未聞の3部門ですよ。国際長編映画賞と長編アニメ映画賞はいいとして、長編ドキュメンタリー賞も候補入り。まだ観られていないのですが、海外の記事を読んでいると、アフガン難民へのインタビューがベースになっていて、それに則った形の情景をアニメで再現しているそうです。それも、アフガニスタンから逃げてデンマークにやってきたゲイの男性が主人公で、分断とジェンダーをテーマにしている。僕らが向き合っていかねばならない深淵なテーマをえぐっている作品ですね。
よ 長編アニメ映画賞がディズニーとピクサーの牙城になっているところがありますからね。そもそも『千と千尋の神隠し』が受賞した部門ですから、もっと他の空気も入れて欲しいですからね。
カ 大手スタジオばかりじゃなくなっているところも面白い。ほんとに過渡期なんじゃないかな。新しい世界が広がる。まさにその時代の真っただ中にいると思うんですよ。それがどう進んでいくのか。それが楽しく、なおかつ心揺さぶるんだと思いますね。
カビラさん個人的推し作と、芸術教育への問題提起
よ 作品賞候補の洋画でお好きだったのは?
カ 『ウエスト・サイド・ストーリー』と『コーダ あいのうた』かな。私事ですが、子どもがバークリーのサマースクールに行ってたり、ボストンに馴染みがあったり。また、僕が子どものころ(オリジナル版の)『ウエスト・サイド物語』を観る前にサントラを聴いていて。当時両親が沖縄、那覇の「國映館」か「琉映館」(双方もうない劇場)に観に行って、いたく感動してサウンドトラックを買ってきてくれたんですよ。何度もかけて、ああアメリカってこうなんだ、と思いましたね。ティーンエイジャーになって初めて『ウエスト・サイド物語』を観てまた染みるという……。スピルバーグ監督ありがとう、ですね。さらにダンスシーンはオリジナルよりもっとすごい。あのダンスアンサンブルはどこを切り取ってもすごい!
よ 「マンボ」と「アメリカ」のシーンがすごすぎましたね。群舞がぶつかりそうでぶつからない、スレスレライン。
カ あのレベルの人数がいて、一流のアンサンブルを磨き上げる素地がある。エンタメのピラミッドを支える圧倒的な夢追い人がいるからできるハリウッドだからこそ。ハイスクールの時代にストレートプレイ、ミュージカルをアメリカ全土で何千校もやってるんですよね。レベルに応じて進学できる大学があり、その大学でも演劇科があって、その中でミュージカルをやり、制作をやり、当然制作スタッフとしても学びがあるわけですよ。それが全部有機的にベースをさらに豊かにする。80年代レーガン政権のころに大幅に文化的な予算がカットされたんだけれども、その素地ってやっぱり教育とトレーニングなんだよなって思いますね。なんかもう悔しいですね(笑)。
よ 日本だとまだまだですからね。
カ なんで義務教育に学芸会以外の演劇がないんだと。つまるところそう。才能は人種で壁はないから、「日本人ができない」とか「日本人離れ」とかやめようよ、と思うんです。それも、なんで日本人自身が決めつけるの。他から言われるならまだしも……。あ、全然本題から離れてしまった(笑)。
よ 「日本人離れ」なんて絶対に言わせない(笑)。そのとおりですよ。
カ 昔から「日本的経営」って言うけど「は? なにそれ」ですよね。「シンガポール的経営」とか「オランダ的経営」って言わないですよね。何十年もメディアにいるけどよくわからない。そんなこと言うからみなガチガチに、自己制限をかけてしまうわけですよ。
よ あたしも使わないようにしています。
カ あー、気をつけよう。もし僕が言ってたら教えてくださいね。「カビラ! あんなこと言ってたけど違うじゃん」って(笑)。
いかがでしたか? 第94回アカデミー賞授賞式は、まもなく3月28日(日本時間)開催です。劇場公開中や配信等で今すぐ観られる作品も今年はたくさんあるので、駆け込みでチェックしてから放送を観ると、もっともっと授賞式を楽しめると思います!
interview & text:MASAMICHI YOSHIHIRO / photo:YOSHIKUNI NAKAGAWA(JON KABIRA)