「似ているようで微妙に違うの」運命の1着に出会うために【スタイリスト白幡啓連載】
白幡啓(以下S) そもそも世の中の仕組みとしてね、何かを買わせたいから流行があるの。そうなると各ブランドが同じ種類のアイテムを作るし、すごーく似ているアイテムで迷う事象が生じるわけよ。
ーああ、ありますね。「どこの店にも同じようなロングコートがあるなぁ、流行ってんだなあ」って刷り込まれて、結局なんか1枚買っちゃう感じ。先生、そういう流行って誰が決めてるんですか?
S 分かんない。アナ・ウィンターみたいな人じゃない?
ー急にアナ・ウィンターですかw
S もしくはコレクションが発表されるよりもずっと前に、生地の展示会があるのよ、プルミエール・ヴィジョン・ファブリックっていう。そういうものも関係していると思うけどとにかくさ、そういう流行には乗らずにはいられないじゃない、私たち世代って。
ー踊らにゃソンソン、の精神ですね。「流行に流されない!」じゃなくて。
S そ。で、じゃあどれがいいのか。例えば今季はピーコートをよく見るから、SNSで「#ピーコート」で検索したら大量に出てくる。でも私、流れが早過ぎて分からないのよ、結局どれが素敵なのか。でね、これが私たちの役割なんだと思ってお借りしてきました、素敵なピーコート2着。どう?
BOTTEGA VENETA
JIL SANDER
“目利きの話を聞いて実際に着ないと。運命のコートなんてそうそう出会えるわけないんだから”ー白幡啓
ーボッテガ・ヴェネタ様とジルサンダー様! ほ、欲しい!
S 素敵だよね。まず大正解のボッテガ・ヴェネタは、コレクション動画で見ていたんだけれど、横から見ても可愛かったのね、背中も丸いコクーンシルエットで、袖もバナナみたい。ピーコートってもともと海軍のアイテムだけれど、そもそも動きやすいように腕がちょっと前に付いているものなの。そういう要素もおさえつつ、ボッテガ・ヴェネタらしい立体裁断で自分で着崩さなくていいビッグシルエット。あのね、ハイブランドのビッグシルエットのアイテムって、スタイルよく見えるように計算され尽くしてるんだって、袖を通すと分かるの。大きいものを着て、からだが大きく見えるなら必要ない。それはただのサイズが合っていない服だから。一方、これまた大正解のジルサンダーのピーコートも立体裁断なんだけど、もう少しコンパクトに作ってあって、さすがレディな感じ。ボッテガ・ヴェネタのほうはちょっとメンズっぽくて素材も縫製も硬いんだけれど、ジルサンダーのほうはそもそもフェミニンさがあるの。40歳を過ぎると着やすいっていうか、他は何も女らしくなくても女性らしさを感じさせることができるのよね。
ーええー、どっちにすればいいんですか。
S 自分にコーディネイト力があるという自負があるなら、ボッテガ・ヴェネタに挑んで。手っ取り早く素敵に着るなら柔らかめのスカートを合わせるのがいいと思うけど、合わせるボトム選びにもハードルがあって覚悟が要るの。でもそういう試行錯誤が楽しいのよ。コーディネートに煩わされたくないならジルサンダーね。私も多分こちらを買うかな。私の場合はコート以外の要素で遊びたいって理由だけれどね。
ーそう説明されると、一見同じピーコートが全然違うものに見えてきました‥‥!
S でしょう? これが雑誌の役割だと思うの。コートなんて大物を買うならもちろん絶対試着しなきゃよ。迷ったとき、判断基準はスタイルよく見えるほう。そしておしゃれの教科書をスマホの中に求め過ぎないでって警鐘を鳴らしたいの。私たちのころは全部雑誌で勉強していたけれど、そうは言わずとも。「#ピーコート」のあまりにも多い情報の洪水の中からじゃなくて、ある程度目利きの人が選んでくれたものから探したほうがいいに決まってるじゃない。だから「なんかこの雑誌、自分の好きなものがいっぱい載ってるなー」ってものを見つけておいて、別にミューズじゃなくてもいいから。そこで紹介されているものを試着しに行って、運命のコートに正しく出会って、おしゃれを楽しんでほしいって思うのよ。
スタイリスト白幡啓
好評連載
[That is]
Photograph:ISEKI / Styling:KEI SHIRAHATA