【スタイリスト小嶋智子 × デザイナー幾左田 千佳】元バレリーナが作る世界観と、それを拡張させるスタイリング術が光る「チカ キサダ」 の世界【後編】
デザイナーとスタイリストとして信頼を寄せ合い、プライベートでも仲よし。「バレエのエレガンスとパンクの生命力」をテーマに掲げ、儚さと強さを表現する「Chika Kisada(チカ キサダ)」。ブランドの世界観をルック撮影を通して共に作りあげている2人が、本誌のために出会いから撮影の舞台裏まで語ってくれました。
元バレリーナが作る世界観と
それを拡張させるスタイリング術
━━━服作り、スタイリング。それぞれが、お仕事で大切にしていることは何ですか。
幾左田千佳(以下C) 女性像。明確なキャラクターはないのですが、自立した女性であることにこだわっています。ブランド自体にも“パンクバレエ”というコンセプトがあります。パンクは音楽のジャンルとしてではなく、精神的な意味合い。そういったエッセンスが、ブランド特有の強さと儚さに繋がっていると思います。
小嶋智子(以下T) 私もスタイリングで女性像を大事にしています。あと、どこかに“リアルさ”があること。でも、ただ着やすいだけではダメ。たくさんのファンタジーや夢、女性らしさ、シックさが詰まっていて、同時にものすごくかっこいい。そんなバランスを目指しています。『ギリギリ着て外を歩けるか』という感覚の際どい一線を楽しめるのが、千佳さんの服なんです。
C よく小嶋さんが破けてしまいそうなくらいデリケートな素材が〈Chika Kisada〉らしさって言ってくれるんですが、繊細なムードは表現したいと思っています。特に素材選びやパターンにエネルギーを注いでいます。
T わたしも子どものときにバレエを習っていました。母親がバレエの衣装は可愛いからという理由で始めて、好きになり何年か続けました。なので〈Chika Kisada〉は、好きなものの結晶みたいな存在。こうしてスタイリングさせて頂けるのは、『私にぴったりの仕事』だと思っているんです(笑)。ストイックなバレエの先生には、少しでもお腹が出ていると『何を食べたの!』って怒られたり(笑)。そのときの記憶が多少は撮影に役に立っているのかも。
C ちょっとかわいそうだけど、そんな少女時代の小嶋さんは愛おしいかも(笑)。大好きなバレエを多くの方と共有できることも喜びです。
T スタイリングしていて驚くのは、手で触って、目で見て、人に着せてみても、どの角度をとっても服が綺麗だということ。世の中にチュールのアイテムって結構あるし、私自身も繊細でエレガントなアイテムが好きで、かなりの数を見てきました。でもチュールの重なりや、ディテールの美しさが他のブランドと全く違う。写真に落とし込んだときも、違いが歴然と出る。絶対にチープにならないんです。
C 確かに、美しく見える服作りのテクニックは、常に追求していますね。そしてチュール頼りにならないよう、展開するアイテムのバランスにも気を配っているんですよ。
━━━バレリーナだった経験が活きているということでしょうか。
C 特に着心地に関してはそうですね。デザインのインスピレーションは、実際にダンサーのリハーサルやバックステージを見にいくこともあります。鍛え上げられた肉体やそこから発されるエネルギーに魅力を感じるので、肉眼で見て、肌で感じたい。直立したマネキンではなくダンサーたちの残像をスケッチして、激しく動き続けるからだに自分のアイデアやデザインが寄り添っていくような感覚。フィジカルな部分を意識することがブランドにとって大切なんです。
T 日常でしない動きをベースにデザインをしているから、モデルがするちょっとした仕草でユニークなシルエットになるんですよね。
C 鋭い。それが楽しくて服作りをしています。わくわくするモチベーションで作ったものが、いいエネルギーとなって、人の心を動かしていく。培ってきたものを糧に服作りをしているので、ある意味とても偏ったブランドですが、素直に自分の心が動くものに向き合っていたいですね。
T 千佳さんの芯の強さや反骨精神のようなものも、いつも近くで感じます。ただ美しいだけではない、というか。クリエイションに対するパワー、それから原動力は尊敬します。
C バレエの世界で挫折を味わっているからかな。バレエに憧れの気持ちを持ち続けながら、同じからだを使った職業としてファッションの仕事を始めました。バレエへの想いを一着一着に向けているというのはあるかも。
━━━ルック撮影はどのように行っているのですか。
C 毎シーズン、私が書いたポエムからスタートします。普段から人と話したときに気になった言葉や、本を読んで見つけた素敵な言葉を書き留めています。いざ新しいコレクションを作るとき、いつもそのメモを見返すんです。そうすると、言葉から光るような何かを感じ取るので、それらを繋ぎ合わせて詩にまとめます。架空の人物が生まれ、カラーパレットや素材感の道標になって方向性が見えてくる。それを小嶋さんと熊谷さんに読んでもらって、撮影のイメージを膨らませていくようにしています。
T いつも読むのが楽しみ。すごく読み込んで、コーディネートして。読み込んだあとに作業に入ると一旦忘れちゃうのですが、撮影後に改めて読むとぴったりで。いつも答え合わせするように『やっぱり合ってた!』って感激するんです。
C 詩にぴったりの世界観が、スタイリングと写真で映画のように生まれるんです。ヘアメイクさんが入ると、さらに女性像がクリアになっていくのも面白い、至福な時間です。
T 千佳さんの我々の意見を受け入れる、懐の深さもすごいと思う。水辺がいいとか雪山に行きたいとか、結構難易度の高い意見を言うんですけど、否定しないで耳を傾けてくれて。最後には『やれることをやろう』と言ってくださる。そこまでやれる撮影って、それだけ洋服が強いってことですよ。思いきったこともできるし、壮大な夢を描けるんですよね。
C 時に話し合いは深夜にまで及ぶことも(笑)。いつもロマンティックなムードに浸れるんです。そのムードを引き出してくれるのが、小嶋智子さん(笑)。そこで生まれるときめきが、ブランドから雑誌、着てくださる方に広がって、本当にときめきが止まらないんですよ。いくつになっても、バレエは触れていたい特別なものだと思います。
女性たちを魅了するバレエに
もっと“いま”のファッションを
━━━バレエ公演では衣装提供も。作った衣装についてと、実際に鑑賞した感想を聞かせてください。
C 今回公演された『バレエ ザ・ニュークラシック』(※注)は、古典バレエを現代的に解釈し、ダンス、ファッション、アートの垣根を超えて、新しいクラシックを提案するという試み。衣装は〈Chika Kisada〉で生み出したノウハウや工場による縫製、現代的な洋服作りなど、いまのファッション感覚に置き換えて制作しています。観ている方にファッションを感じていただきたい、そんな想いで新たなアプローチに挑みました。
(※2022年8月に上演されたバレエ公演。日本が誇るクリエイターたちを招き、「バレエ」の礎を21世紀ならではの価値観で再解釈した公演は、今までのクラシックなイメージを一新するかのような大胆な演出が話題を呼んだ。)
T 《ジゼル》が一番好きでした。踊る度に布がぱさって広がってゆっくり落ちる。あの瞬間が忘れられなくて。まるで生きているクラゲのような動きと余韻がとても美しくて、それでいてなんとも言えない色気があった。梨花さんに着てもらったドレス(小誌2021年6月号)のデザインが一番好きなので、舞台でも一番感動しちゃいました。
C そう、実は同じ技術で作っています。チュールのみを空気を孕むように、ラッフルで生地を取って繋いでいくんです。なので、生地が重力で下に落ちようとするときに、動きに遊びがあるので、その過程が美しくなる。
T なるほど、写真映えするわけだ。
C いまの時代は、着る人のキャラクターを個性としてどう表現するかが求められている時代です。衣装だけが目立つことなく、ダンサーと美しい肉体が一番美しく見えること。バレエの芸術性を邪魔しない衣装を作りたいと思っています。また、衣装は従来のスパンコールや羽毛などは使わず、ビニール素材のコルセットがダンサーの体温によって曇り、羽のように見えるという、すでに人間が持っている生理現象を活かした装飾も取り入れています。
━━━今後、挑戦したいことを教えてください。
C 舞台芸術こそときめきの連続なので、もっと経験を積んでいきたいなと思っています。小嶋さんと一緒に挑んでみたいという夢のような目標もあるんです。衣装とファッションの間にある距離を縮めていって、バレエの魅力をもっと伝えていきたいです。
T やってみたい! 海外は舞台とファッションブランドのコラボレーションって結構あるし、日本でも広めていけたら最高ですね。
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