日本の高齢男性の着こなしからも想を得る。日本初の旗艦店【スタジオ ニコルソン 青山】デザイナーのニック・ウェイクマンが語る、タイムレスな服の魅力
東京・青山に、必ず訪れたい新スポット「スタジオ ニコルソン青山」が誕生。スタジオ ニコルソンはテキスタイルの魅力を最大限に活かし、ジェンダーレスで洗練されたワードローブを展開するイギリス発のファッションブランド。ショップオープンを記念して来日した、クリエイティブディレクターのニック・ウェイクマンにお話を伺いました。
スタジオ ニコルソンが提案する
モジュール式のワードローブ
——まず、スタジオ ニコルソンというブランド名の由来を教えてください。
「“スタジオ”は、一般的な仕事場や制作場という意味です。“ニコルソン”は、私の祖母の名前。私の名前を掲げたブランド名にすることは避けたかったので、とてもスタイリッシュな女性だった彼女の名前を引用しました」
——スタジオ ニコルソンのコンセプトがあれば教えてください。
「シンプルであるからこそ、タイムレスに着続けられることを大切にしています。ブランドを始める以前から私のクローゼットはミニマムだったのですが、その多くがメンズウエアでした。当時からメンズのジャケットやシャツ、デニムをお直しして着ることが多かったのです。デザインのバリエーションが少なくても、上質な生地だから長く着用でき、そしてコーディネートしやすいことをコレクションのポリシーにしています」
——それが、スタジオ ニコルソンが提唱している、モジュール式のワードローブですね。
「はい。新しく購入したものと手持ちのピースを組み合わせられる、シーズンレスで色褪せないワードローブを目指しています」
——メンズウエアやテーラードに影響されたデザインが特徴的ですが、女性がメンズライクな装いをするよさとは?
「スタリングによいインパクトが生まれます。メンズのシャツを胸元のボタンを深く開けて着たり、イヤリングなど大ぶりのアクセサリーを合わせたり……。フェミニンでありながらも洗練されたムードが漂う、バランスの取れた装いができると考えています」
——逆に、男性がフェミニンなアイテムを身につけることについては、どう思いますか?
「いいアクセントになると思います。ブランド創設時は、ウィメンズコレクションのみを展開していましたが、男性のカスタマーの要望がとても多かったので、2017年にメンズコレクションを立ち上げました。同じデザインのものを、ミラーリングのように身体的な条件に沿ったパターンに移行して服作りを行っています。なので、不思議な経緯ですが、男性からも共感を得たコレクションを提案できていると思います」
——現在、ショップに並んでいる2023AWコレクションから、ブランドを象徴的するアイテムを教えてください。
「フェミニンなドレスとその上から羽織っているメンズテーラリングのコートです。このルックのコンビネーションバランスは、メンズアイテムだけでは成立しません。このシーズンのムードボードには、90年代のケイト・モスやソフィア・コッポラの写真がありました。アーミージャケットやブラックスーツからも影響を受けたコレクションです」
素材のコントラストが織りなす
計算された内装デザイン
——青山店の内装で、こだわったことはありますか。
「ロンドンと韓国にストアを構えていますが、全て同じコンセプトと内装で、床以外は同じ木材とラミネート仕上げです。青山店のフロアはとても美しいコンクリートの上に、樹脂のコーティングが施されています。マットな素材の什器に、光沢のある床はとてもいいコントラストを生んでいます。青山店は最高の仕上がりで、私にとってベストストア(笑)。各ショップは、私の住宅とも似たスタイルなんですよ」
——ブランドサイトのコンテンツからは、建築や写真への情熱を感じます。好きな建築家とフォトグラファーはいますか?
「まずは、安藤忠雄さん。フォトグラファーは、たくさんいて選びきれません。強いていえば、ジョエル・マイロウィッツでしょうか。私は人間観察が好きで、彼は最も才能のある人間の観察者であり、写真家だからです。彼の写真集は、一番のお気に入りです」
——なかでも日本の建築がお好きだそうですが、どこに(日本建築の)魅力を感じるのでしょうか?
「日本の建築には、空間への高度な理解を感じます。これは、建築にとって非常に大切なことですよね。また、色使いもとてもナチュラルで、全体的に穏やかなところにも共感します」
——日本男性の高齢者の装いにインスパイアされると伺いましたが、なぜでしょうか?
「一番の理由は、彼らが同じ洋服を長い間着続けていることにあると思います。年齢を重ねるごとに体型は変化していきますが、それに合わせてテキスタイルも美しく収縮して、洋服が身体によく馴染んでいます。また、何度も着用しながらも丁寧に手入れされたファブリックは、美しい風合いがありノスタルジーを感じさせる魅力があります。誰しもがいつかは老いるわけですが、大切なことを教えてくれているように感じるんです」
——スタジオ ニコルソンのヒットアイテム、ボリュームパンツも、東京の街中で見かけた男性がインスピレーション源と聞いています。
「20年前に原宿で見かけた、若い男性の装いに影響を受けてデザインしました。彼が履いていたヴィンテージパンツを見て、すぐにスケッチをしたことを今も覚えています」
——女性からインスパイアされることはありますか?
「メンズウェアの他に、90年代のグランジやパーティシーンのムードや女性たちの装いからヒントを得ることはあります。オーセンティックな普通の服を、スタイリッシュに着るという点では、ジェーン・バーキンはオリジナルであったと思います。彼女は、紛れもなくアイコンですね」
——映画『TAR』では、女優のケイト・ブランシェットのファッションが話題になりました。スタジオ ニコルソンのアイテムも着用していましたが、どう感じられましたか?
「彼女はメンズのシャツを着用しました。配色の美しいとても完成度の高い映像作品だったので、衣装に選ばれたのは光栄でしたね。ただ、ターという人物の強烈なパーソナリティには、正直驚きましたが(笑)」
——ターが纏っているような、一見ごく普通に見える洋服がラグジュアリーブランドのものだった、という“クワイエット・ラグジュアリー”が、トレンドとして注目されていますね。
「はい。もう随分と前から、私たちが提案しているスタイルです。エルメスやロロピアーナなどのラグジュアリーブランドも、ずっと続けてきたことですよね。なので、最近の周囲の盛り上がりはあまり気になりませんし、私たちのマーケティングのキーワードにはならないでしょう。スタジオ ニコルソンとしては本質的な服作りを続け、今までどおり独自の道を進むだけです」
——成功されている女性として、日本の女性たちにアドバイスをお願いします。
「たくさんのプレッシャーがあるかと思いますが、自分らしく生きることを第一に心がけてください。そのためには、常に自分自身であることが大切だと思っています」
interview & text : AIKA KAWADA