映画『ルート29』綾瀬はるかインタビュー「いわば無の境地でその場に委ねる。そこが難しかったですね」
映画『ルート29』にて孤独を抱える主人公を演じた綾瀬はるかさん。このタイミングで出会えてよかったと語る、今作への想いとは。
全く違う世界への興味があった。転機になりうる出会いとタイミング
セリフがごくごく少なく、のり子のキャラクターもこれまで綾瀬さんが演じてきた役柄にはありません。挑戦でしたね。
「確かにセリフに頼ることがない役でした。前作の『リボルバー・リリー』もセリフは少なかったんですが、アクションで表現することができました。ですが、のり子は動きも少なかったですからね。脚本を読んだときから、この役を今やったら面白そうだなと感じていました」
出演のお話はどれくらい前に?
「2022年の『はい、泳げません』でご一緒した孫家邦プロデューサーから、公開直後くらいにこの役は私に合うんじゃないか、と伺ったのがきっかけです。それで脚本を読んだんですが、読んだだけだとすごくシュールな映画に思えたんですよね。これを映像化するとどうなっちゃうんだろう、と想像がつきませんでした。でも、森井(勇佑)監督が同世代だったり、『こちらあみ子』を拝見したときもすごく魅力のある作品を撮る方だな、と感じていたので、とにかく監督にお会いして飛び込んでみようと決めました」
脚本はシュールだったんですね。
「完成した映像よりももっとさっぱりしていて、そぎ落とされている感じの世界観だったんですよ。だから、どういう映画になるんだかちょっと見えなかったんですね。監督の前作『こちらあみ子』はものすごく心が痛むけど、過剰な表現がなく、淡々とあの世界観を描いていたじゃないですか。きっとあのテイストでこの作品も撮るんだろうと思ったら、その一部になれるならぜひ、と。不安はありましたけどね」
キャリアの転機を求めてました?
「それはありますよね。この作品の撮影は昨年夏だったんですが、その前の年は『リボルバー・リリー』と『レジェンド&バタフライ』と立て続けに大作。ドラマも『元彼の遺言状』で弁護士の役で。どの作品もものすごくたくさんお稽古をして、準備をして、セリフもたくさんあって、と作り込むことが多かった。だから次は全く違うタイプの作品に関わりたい、という気持ちもあって。そのタイミングでこの作品に出会ったので、これなら全く違った世界に行けるかも、いったいどんな世界なんだろう、と興味が深まっていったんだと思っています」
蓋を開けてみないと、どんな世界か本当に分からなかったですよね。
「ねー(笑)。出来上がったときに『こちらあみ子』とも全然違う雰囲気になっていたのを最初に感じて。やっぱりこの作品に出演してよかった、と思えました」
ロードムービーでシチュエーションはどんどん変わるのに、衣装やヘアメイクは劇中で全く変わらず。役作りに関して外見に頼ることができない分、かなり大変だったんじゃないですか?
「最初はちょっと戸惑いました。でも、作り込んだ世界観じゃないことにワクワクしました」
では、撮影はけっこう順調に?
「でも、これはこれで、きつかったことが。昨夏のロケは、ほんと暑くてもう(笑)。呼吸するのもしんどいくらい」
のり子のキャラクターについて監督からどう聞いていました?
「のり子はなぜ人とのコミュニケーションが苦手で、そもそもどうしてこういう人になったか。『こちらあみ子』の主人公・あみ子の延長線上にのり子がいるんですよね。あみ子は、よかれと思って言ったことなのに、大人たちからは否定され続ける。のり子もそういう経験があって、自分がいいと思ってしたのに、周りから非難されることによって、人と交流することを閉ざしていった。だから自分の世界だけで生きるようになったんだけど、心の中の宇宙はとっても大きくて、人に興味がないわけじゃないんだけれど、それを表に出すのが苦手、という。それを伺っていたことで理解しました」
direction & make-up:UDA[mekashi project] photograph:KATSUHIDE MORIMOTO styling:REINA OGAWA CLARKE hair:YUSUKE MORIOKA[eight peace] model:HARUKA AYASE interview & text:MIYU SUGIMORI, MASAMICHI YOSHIHIRO
otona MUSE 2024年12月号より