アメリ、赤いカフェの椅子、クリームブリュレに憧れて…【パリ】旅でカルティエに入れなかった日

ホテルから送迎車が来ているはずだけど、案内板をみてもなぜかどこにも辿り着けない。このまま、『ターミナル』のトム・ハンクスみたいに、空港で暮らすことになったらどうしようと思った。
タクシーすら見つけられず疲れ果てたわたしは、ちょうど目の前に止まった行き先もよくわからないバスに、一か八かで飛び乗った。こういうとき、なぜか自分の命運に賭けるギャンブラー精神を発揮してしまうのである(やめたい)。
「このホテルの方にいきますか?」と運転手に尋ねると、完璧な発音で「I don’t speak English.」と言った。
あ、これ、『エミリー、パリへ行く』で観たやつだ。たぶんこれは、パリの洗礼。
飛び乗ったわたしが悪いけど、わたしはわたしの運に負けたらしい。トボトボと空いていた頼りない席に座った。どうすればいいか考えるのも面倒になって、半ば諦めたまま車窓の外を眺めたり、見飽きてiPhoneをいじったりしていた。
すると、「Madam!」と声がした。気づくと、バス停でもなんでもない道端にバスが停まっている。慌ててGoogleMapを開くと、予約していたホテルのすぐ近くにいた。
脳の理解に時差が生じて、ホテルの近くまで寄ってくれていたことにようやく気がついた。パリの洗礼を浴びたと思ってしょんぼりしていたわたしに、不意打ちのパリのやさしさは沁みすぎる。
ちょっと泣きそうになりながら「メルシー・ボーク」と伝える。
よくぞこのタイミングで、フランス語のありがとうが出てきたねと、自分を褒めたくなったけど、さすがのわたしもTPOはわきまえている。ぐっと堪えて、ささっとバスを降りた。
彼はニカッと笑って、余韻も残さず、猛スピードで走り去っていった。

photograph & text:MISATO SHIMIZU
WRITER
タレント・モデル・俳優
清水みさと
タレント、モデル、俳優など幅広く活動。サウナ好きが高じて、「サウナイキタイ」のポスターをはじめ、ラジオ「清水みさとの、サウナいこ?」(AuDee/JFN全国21局ネット)のパーソナリティーを務めるほか、TRANSIT「世界のサウナ巡礼記」、るるぶ「あちこちサウナ旅」、リンネル「食いしんぼう寄り道サウナ」、オレンジページ「本日もトトノイマシタ!」など多数の連載を担当。









