「悲しい出来事も役を通して消化していける」4月25日公開映画『花まんま』有村架純インタビュー

2005年、第133回直木賞を受賞した朱川湊人の短編集『花まんま』(文春文庫)が映画化。泣ける……! 4月25日に公開される、今年要チェックの日本映画です。妹のフミ子を演じた有村架純さんに、撮影の舞台裏や作品についてお話を伺ってきました。聞き手は映画ライターのよしひろまさみちさんです。愛らしくて、芯が強くて、思慮深くて……そんなヒロイン像を少しも裏切らない! 吸い込まれそうな大きな瞳が、とても印象的な方でした。
映画『花まんま』
4月25日(金) 全国公開
キャスト:鈴木亮平 有村架純
鈴鹿央士 ファーストサマーウイカ 安藤玉恵 オール阪神 オール巨人
板橋駿谷 田村塁希 小野美音 南 琴奈 馬場園 梓
六角精児 キムラ緑子 酒向 芳
原作:朱川湊人『花まんま』(文春文庫) ✿第133回直木賞受賞
監督:前田 哲(『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『そして、バトンは渡された』『九十歳。何がめでたい』ほか)
配給:東映
©2025「花まんま」製作委員会
あらすじ:大阪の下町で暮らす二人きりの兄妹。兄・俊樹は、死んだ父と交わした「どんなことがあっても妹を守る」という約束を胸に、兄として妹のフミ子を守り続けてきた。妹の結婚が決まり、親代わりの兄としてはやっと肩の荷が下りるはずだったのだが、遠い昔に二人で封印したはずの、フミ子の〈秘密〉が今になって蘇り……!
CONTENTS
鈴木亮平さんとはいつかご一緒したいと思っていたんです
――すごくほっこりしたファンタジーで泣かされました。出演が決まったときはどうでした?
有村 最初お話いただいた時は、前田監督と主演の鈴木亮平さんが決まっていたんですが、以前監督の作品でご一緒するタイミングを逸してしまったことがあったり、鈴木さんとはいつかご一緒したいと思っていたので、すごくいいタイミングでお話をいただけたと思っています。監督の作品は『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』などを拝見していて、噂では現場が大変だとうかがっていたので、「よし行くぞ」と覚悟して挑みました。
――え、大変でした?
有村 それが、実際はぜんぜんそんなことはなく(笑)。監督はすごく空気を読まれたり、今この人は何を考えてるかを察知するのが得意な方なので、演じる側が常にやりやすいように工面してくださるんです。噂から抱いていた印象とは全く違いました。なので、こちらとしても歩み寄りやすかったですし、ちゃんとお芝居での心情の部分も見てくださったので、お芝居の指示もとても的確でわかりやすかったです。
――前田監督としても、フミ子のイメージと有村さんがぴったりだったと思いますよ。
有村 そうだと嬉しいですよね。原作を読んでいたのですが、今回の作品では原作の後半部分をふくらませていたので、原作をベースにした別の作品のようでした。でも、原作の大半を占める幼少期の家族の関係性や空気感は、原作を読んだことによって寄り添うことができ、それをさらに現場で監督や共演の皆さんとともにふくらませていけたんだと思います。
うまくいくタイミングって、何か別の力が働いているように感じるときはあります
――フミ子は兄・俊樹に隠しごとをしていますし、あるキャラクターが乗り移ったかのような場面もあり、多面性のある役柄ですよね。でもその境目が見えない、すごくフレキシブルな芝居だったと思うんです。
有村 そうなんですよね。輪廻転生みたいなファンタジーが盛り込まれているキャラクターで、自分自身に現在進行形で他の人の記憶が宿る人物を演じるのは初めてでした。フミ子にとっては、自分と別の人格に境目がなく、それが日常であるというところを捉えていたので、おそらくフミ子はすごく客観的だったんだろうと思います。なので、兄やんとの喧嘩のやり取りで「私は私や!」っていう発言が出てきたりするんですよね。私の解釈ですが、フミ子にとってフミ子の部分がとても大きくて、別のキャラクターに侵食されまいとしているんじゃないか、と思って演じています。
――フミ子のように見えない何かに突き動かされるっていう経験、あります?
有村 見えない力……ちょっとオカルトっぽいですね(笑)。その手の話ではありませんが、今回の作品との出会いのように、うまくいくタイミングって何か別の力が働いているように感じるときはあります。たとえば、自分の私生活で悲しい出来事があったとして、その瞬間は悲しい、でも振り返ってみるとあのとき悲しかったことって、この役で、ここの感情で必要だったんだ、とか。ありがたいことに、お芝居をするお仕事があるおかげで、自分にとっていい出来事だけでなく悪い出来事も、役を通して消化できていくんです。それがすごく助かっていると感じることは多々あります。
――役者のお仕事って難しいですけど、そんな利点があるんですね……。しかも、経験済みのリアルな感情が活用できるとは。
有村 そうなんです、ありがたいことに(笑)。今回も、それこそタイミングの話なのですが、この王道の家族ものが自分にとっては、すごく必要だった時間、でした。しかも主演じゃなく、大事な役割で参加させていただけたことも含めて。座長としてではなく別の角度から現場を見ることもできましたし、地元でもある関西でオールロケということも全て含めて、タイミングがばっちりあっていたのが、いい影響を与えていると思っています。お芝居の取り組み方は一緒ですが、すごく楽しかったんです。

関西弁のおかげか、全員とちゃんと仲間に入れていただけた感があって嬉しかったです
――関西弁のセリフというのもプラスに働きました?
有村 もちろんあります。やはり自分にとってはあの環境で生まれ育ってきたので、根本的には関西人。会話のテンポ感とか、会話のニュアンスとか。必然的に感じられるものはあります。それに、スタッフの皆さんもみんな関西の方だったので、ほぼみんなで関西弁。鈴木さんも関西弁ネイティブですし、私もオフカメラの場で関西弁になりました。そのおかげか、全員とちゃんと仲間に入れていただけた感があって嬉しかったです。
――心に残っているロケ場所は?
有村 結婚式の準備をしているシーンで、神戸ポートピアホテルをお借りしたんですが、ポートピアホテルは実は別の作品でも泊まったことがあったので、その時を思い出しました。また、別の作品でも、ポートピアホテルの近くのカフェで撮影したこともあって、すごく縁の深い場所なんです。数年前なんて、ポートピアホテルの近くのカフェで撮影していたとき、ホテルで働いていた地元の友だちから「撮影があるんでしょ?」と連絡があって、彼女が仕事終わりに来てくれたんです(笑)。
――地元だと、そういうハプニングが!
有村 そうなんです。うれしいハプニングですし、普段から地元の友だちとは連絡をとっているのですが、なかなかプライベートで帰る機会がないので、ほっこりする瞬間でした。
――では『花まんま』のキャンペーンで帰るのが次の機会?
有村 多分そうなります。
最近、興味をもって調べたのは金継ぎです
――鈴木亮平さんとご一緒してみたかったとおっしゃってましたが、共演してみた印象は変わりました?
有村 本物の役者さんといいますか、何でもできちゃうけどすごく器用ではないぶん、努力されてかたちにしていく方だろうと思っていました。きっと几帳面なんだろう、と。ですが、実際お会いすると、すごいお茶目な、チャーミングなお方で。ご一緒してすごく安心して芝居ができました。
――勉強家ですよね。
有村 役についてだけでなく、世界遺産やお寺など、歴史のことにすごくお詳しいんです。知識の宝庫でした。私自身は興味があることであれば突き詰めるのですが、そうでないことは……その落差が激しいタイプなので、尊敬のまなざしでした。
――ちなみに今1番興味を持っているのは?
有村 最近調べたのは金継ぎでした(笑)。
――あれ? 小社で金継ぎムックが出ていますけど(『TJ MOOK 大人のおしゃれ手帖特別編集 簡単! おうちで金継ぎ』)。ぜひ、トライを!
interview & text:MASAMICHI YOSHIHIRO
photograph:KAZUYUKI EBISAWA[MAKIURA OFFICE]
hair & make-up:IZUMI OMAGARI
styling:SEGAWA YUMIKOumiko
衣装:エンフォルド
WRITER
1972年、東京都新宿区生まれ。大学在学中からゲイ雑誌『バディ』編集部で勤め始める。卒業後、音楽誌、情報誌、女性誌などの編集部を経て独立。『sweet』、『otona MUSE』(共に宝島社)で編集・執筆のほか、『an・an』(マガジンハウス)、『家の光』(家の光)、『with』(講談社)、『J:COMマガジン』(J:COM)など多くの媒体で、インタビューやレビュー記事を連載。テレビ、ラジオ、ウェブなどでも映画紹介をするほか、イベントでの解説、MCも。ゴールデングローブ賞国際投票者、日本アカデミー賞会員、日本映画ペンクラブ会員。