「家ではめっちゃ笑ってるし怒ってるし
泣いてる」広末涼子インタビュー
最新エッセイ『ヒロスエの思考地図 しあわせのかたち』を自ら書き上げたという広末涼子さん。偉人たちの哲学書などから引用した60の印象的な言葉と共にこれまでの経験や実感が綴られていて、励まされたり「そんなことあったの?」と驚いたり。日本を代表する女優でありながら3児の母であり、ミューズ世代でもある広末さんがもし私の友だちだったら。こんな言葉たちと寄り添ってくれるのかもしれません。
「これが人生よ!」と
笑顔で言える人生観でありたい
━━━まさに、オトナミューズ世代。現在41歳の広末さんが書籍で紹介した偉人たちの60のフレーズの中で、特に読者に伝えたいものをまず、選んでもらった。
「そうですね、33のオードリー・ヘップバーンの『この世で一番素敵なことは笑うことだって本気で思います』って言葉はとっても素敵で大事だなと思うし、47の『自分で作る幸福は、決して人を欺かない』っていうアランの言葉もきっと、実感されている方が多いと思います。
変な話、オトナミューズの世代で何も背負っていない人なんて、いないんじゃないかと思うんですね。育った環境や味わった挫折って10代~20代はかなり個人差があると思うけれど、何も知らずにピュアに無垢にこのくらいの年齢を迎えられる人なんて、やっぱりいない。誰かの死に立ち合ったり、大きな壁に打ち当たったことがある方たちだと考えると、頑張り過ぎないでと労りたい気持ちもあるけれど、そのあたりはもう……ご自身で超越している方も多いんじゃないかって(笑)。だから、キラキラしていてほしいです。笑っていてほしいし、自分の力で幸せを掴み取ることができる方たちだと思うから、何か後押しできるきっかけになれたらいいな、って」
━━━そうは言っても、広末さんほど荒波を越えてきたミューズはさすがに多くないはず。地元・高知を出て10代で芸能界入り。瞬く間に社会現象レベルの大ブームを巻き起こし、大学へ登校するだけで実況中継のヘリコプターが飛んだ(!)ことも。書籍の中では当時の思いや葛藤もあっけらかんと語られている。出産時のことやある日、腎盂炎で病院に運ばれたエピソード(このお方、本当に我慢強過ぎる)など、「人間・広末涼子」が垣間見える1冊でもある。
「こういう形だから書けることもあるかなと思いましたし、書きやすかったですね。女優というお仕事に憧れてこの世界に飛び込んできたので、やっぱり立場上、夢を奪いたくないという気持ちがあって。SNSはやらないとか、プライベートを全てオープンにすることがいいとは思わないといっても、そろそろ自分自身の価値観をアップデートしなきゃと思っていたタイミングでお話をいただいたので。
哲学書自体は高校・大学時代にすごく読んでいたんです。やっぱり、その時期一番悩んでいたんでしょうね。なんだろう、自分らしさとかイメージとのギャップとか、存在価値とか。周囲からの期待とか責任、みたいなものも重圧に感じていて、その答えが欲しくて。お芝居の台本を読んでいると、常に感情が優先的になるんですよ。泣くとか、感動するとか、台詞に感情移入するとか。けれど哲学書を読むことでもっと客観的に、静かに自分と向き合えていたのかもしれませんね、今思うと。
ただ、今回の書籍では自分の本棚にある本や言葉だけだと偏ってしまうと思ったので、編集の方にピックアップしていただいて出会った言葉たちもありますし、哲学者の言葉だけだと男性的で、時代背景も色濃く出てしまうので、桃井かおりさんとか、ココ・シャネルさんとか、好きな女性の言葉も入れさせていただいて。今の時代に沿うものになったかなとは、思っています」
━━━そして広末さんの記憶に刻まれた言葉も。盛大なネタばらしになってしまうが、書籍の最後を飾る60番目の言葉は黒柳徹子さんの「偶然」についての発言。そこにフランス留学時に広末さんが経験した素敵なエピソードが添えられている。偶然の出来事に幸せを感じる広末さんに投げかけられたのは「涼子、これが人生よ!」という、お世話になったフランスのマダムの忘れられない一言だ。
「これが人生よ! って言葉を聞いたときに、すごく感動したんです。私、日本にいるとき、『人生』って『……人生って、そんなもんだよ』とか、うまくいかないときに『それが人生だよ』って言われる印象が強かったんです。
それなのにすっごくラッキーなときに『これが人生だ!』って言われて。やっぱり文化が違うとこんなに違うのかなって(笑)。それと同時にこの言葉を自分の人生観にしたいし、そう言える人でありたいって思いましたね。ポジティブに受け止めたい。偶然って本当に、必然だと私は思うし、運命だと思うから」
━━━人生で心に刻んできた人や言葉との出会いを、思い出しながら書き上げた初のエッセイ本。これまで自宅に仕事は持ち込まないというルールを決めて女優として本当に第一線で活躍してきた広末さんがその禁を破り、毎日早朝に、幼い娘がスヤスヤ眠る横で自らの手で(PCではなく、ペンで)執筆した中には、当然、家族や子どもたちとのエピソードが頻出する。
「家にいるとめっちゃ笑ってるしめっちゃ怒ってるし、めっちゃ泣いてます(笑)。感情が出せる場所があるっていうのは大事だなって、感じますね。若いころは『母親はいつも笑っていなきゃいけない』『強くなきゃいけない』と思って長男と接してきたんですけど、それには限界があることに気づいてからは、ちゃんと自分の気持ちを子どもに伝えることにしました。伝えることで、子どもが支えてくれたり手伝ってくれたり、彼らの成長にも繋がるってことにも気がつきました。
この仕事って、感情が出せない局面が多いんです、お芝居以外では(笑)。人目もありますし、こんなところで泣いちゃいけないってときも、どんなに疲れていても笑わなきゃいけないときもあります。それがあまりにも普通になっていて、職業病だったのかな? って思うんですが、今は感情を出せる場所がある。家族がいる。目の前にある家庭は自分が作ってきた幸せなんだな、って思うんです、誰かに与えてもらった幸せではなく。だから家は大事な場所で、家族は自分にとって、核なんですね」
━━━そんな広末さんに最近笑ったことを尋ねてみると「A-STUDIOという番組で、地元・高知のお友だちがみんな出てくれたこと」を本当に嬉しそうに話してくれたあと、「でも『世界の果てまでイッテQ!』とか見て家族で笑ってます」と破顔し、「若いころは『おばさんになったらこの仕事は辞める』と言っていたのに、当時考えていたおばさんの年齢はもう、とっくに超えているんです」と冗談めかす。映画にドラマに第一線で活躍し続け、多くの栄光に輝き『日本を代表する女優』と称されることも多い広末涼子という人は、思いのほか気取りがなく、幸せそうで、ずっとその言葉を聞いていたくなる魅力的なミューズだった。
photograph:SATOSHI KURONUMA[aosora] / styling:JUNKO OKAMOTO / hair & make-up:AKEMI KURATA(THYMON Inc.)
otonaMUSE 2022年7月号より