「とてつもない優秀な才能に日本映画界は支えられている」二階堂ふみ9月5日公開映画『遠い山なみの光』インタビュー
現場では悦子(広瀬すずさん)とうまくリンクしていくように、と心がけていました
――石川監督の作品は芸術性が高いことで世界的に評価をされていますよね。
二階堂 説明過多になりがちな映画が多いなかで、監督の作品は一度観たときは腑に落ちなくても、何度も観ているうちに分かる、もしくは腑に落ちないでもそれぞれが受け止めればよい、という作品づくり。そこが観る側としても演じる側としても、すごく好きなところです。おまけに今作はイシグロさんの文芸作ですし、映画にするにはすごく難しいことは覚悟していました。この物語の中で戦中戦後の市井の人たちが感じていたこと、経験されたことを、この戦後80年の節目に紡いでいくことに意味がある、と石川監督とイシグロさんがカンヌのインタビューでおっしゃっていたんですが、私自身もそこには共感していますし、とても深い意味があると思っています。そういった物語だからこそ、分かりやすさを重視する、というのは、あえてしてはいけない、という気すらします。
――作り手のおひとりとして、その使命は感じられているんですね。
二階堂 偉そうなことは言えませんが、あの大戦を題材にした作品をこのタイミングでお披露目するわけですから、私の中でもあまりわかりやすい落としどころを作らない大切さみたいなものがあるのではないか、と思っています。
――映画にある余白の大切さって、今こそ考えるべきですよね。分かりやすさ至上主義の映画が大半になってしまいましたから。
二階堂 おっしゃるとおり、観る側にとっての余白があることは、作り手側からするとある程度の隙間があることにもつながり、役者としてはそのほうがコミットしやすく感じるんですよね。ただ、この作品は……難しかったです。
――難しいというのは、役作りでしょうか。それとも役そのもの?
二階堂 私が演じた佐知子は、“こういう経験をしてきたキャラクターです”ということが明らかにはされない役だったので、役自体を解釈するために監督と密にコミュニケーションをとりました。広瀬さんが演じた悦子とは鏡合わせのようになっているキャラクターでもある、と石川監督がおっしゃったことをヒントに、現場では悦子とうまくリンクしていくように、と心がけていました。

――観た方だけで共有できる、佐知子の秘密がありますものね……。
二階堂 そうですよね。原作を読んだときも感じたことですが、この作品自体、悦子だけでなく出てくるキャラクターがみんな、多面的に描かれているんですよ。わかりすくキャラクターの役割を明確にして作られることが多いですが、この作品に関しては違いました。悦子は最初こそあの時代を必死に生きる、どちらかというと受け身な女性。でも、広瀬さんが作っていった悦子は、物語の展開とともに強さが見える多面性を持った女性に仕上がっていったんです。このことは現場でも監督とお話していたんですが、そのおかげもあって、私も佐知子をある程度の幅をもって演じることができたのだと思います。
――広瀬さんや石川監督とのセッションによって完成したんですね。
二階堂 そうですね。そうして作るキャラクターはもちろん大事ではあったんですが、役作りにおいてはリサーチを重点的にしました。この物語の舞台になった長崎や広島で被爆された方、または戦争を経験された方々が、あの時代にどういった生活をされてどういうものを見聞きしていたのか、ということが、佐知子を演じるうえでは重要な気がしていたので、ドキュメンタリーや資料を観たり読んだり。そうやって、当時の人々が感じていたことに少しでも近いことを感じ取れるよう、現場では努めていました。
――そういえば参考資料は監督から指示されたんですか? 古い映像資料とか探し出すのは難しかったのでは?
二階堂 特に指示はされませんでした。ドキュメンタリーをはじめ、映像資料やインタビューを観たり読んだりしていました。もともと高峰秀子さんが大好きで……、
――え!?
(編集部注:高峰秀子……1929年子役デビュー。戦前・戦後を通じて半世紀にわたり日本映画界で活躍した女優)
二階堂 名コンビとなる成瀬巳喜男監督の作品や、小津安二郎監督の作品など、以前から観続けていて。高峰さんは戦前から活躍されて、戦時中には慰問公演もされていた当時の大俳優じゃないですか。当時のアイコンであり、当事者である高峰さんの作品、お芝居、エッセイなどの著書から得られた情報の影響が、少なからずあったと思っています。
――高峰さんの作品にハマったきっかけは覚えてらっしゃいますか?
二階堂 子どものころに、松山善三監督の『名もなく貧しく美しく』(61)をテレビ放映で母と一緒に観たことですね。本当に素敵なお芝居をされる方だな、と思って、そこからずっと観続けています。
――わー……渋い。けどいい機会でしたね。
二階堂 エッセイを読むと分かるんですが、ご自身の生活ぶりも素敵なんですよ。すっかり高峰さんフォロワーです。
Interview:MASAMICHI YOSHIHIRO
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