PEOPLE

オトナミューズ編集部

「準備はする、でもまっさらに演じる」【長澤まさみ】主演映画『おーい、応為』で天才絵師を体現

撮影の日々を振り返ったときに、長澤さんは「憧れを抱きながら演じた」とコメントを残している。


「子どもの頃から絵を描くのが好きでした。絵描きになるのは小さい頃の夢のひとつで、才能があって絵が上手い人、つまり自分の“技”を持っている人への憧れがずっとあるので、演じられることの嬉しさを日々感じていました。

 

応為を演じると決まったとき、嬉しさと同時に『ちゃんと描けるようになりたい』という欲も生まれました。撮影前、日本画や浮世絵を研究されている先生方に指導を受けたんです。実際に生業にされている方が撮影中もそばにいてくださったので、撮影の空き時間やちょっとの休憩があれば、先生たちのお部屋にお邪魔してレッスンをしていただく贅沢な現場。

 

この作品で、応為のために選ばれたのは、長めの鋒(ほう)を持つちょっと独特な中国筆。鋒が長いと扱いは難しいのですが、応為をイメージしたときにこの筆がいいんじゃないかと決まったそうで、ならば私もこの筆でやります! と決めました。いざやってみると細い線を描くのがとても難しくて、筆先から生まれる線は思うようにいかないことがほとんど。

 

でも、その『いつになったら描けるようになるのだろう』という手応えのない感覚、『いつか描けるようになりたい』という小さな希望こそ、北斎や応為の生き方、作品の世界観にも北斎との関係性にもどこか通じているように思えました。

 

私は本当に少しでしたけど、北斎を演じた永瀬正敏さんも実際に浮世絵を描くシーンがあって、描くことが北斎と応為にとっては日常生活の一部であるような説得力を映像の中に収めたいし、お芝居の中で演じたいという強い思いがあって、絵の練習も頑張れましたし、応為の情熱みたいなものと共鳴して、いい作用をもたらしていたかなと思います」

©️2025「おーい、応為」製作委員会

応為は「美人画では父を凌ぐ」と言われた才を持ち、当時は数少なかった女性絵師。作中では稀有で才能ある人物としてではなく、長屋で暮らす庶民として、ただひたすら浮世絵に向かう姿が淡々と紡がれていた。江戸時代に存在していたであろう、とあるひとりの人間として。

 

「こうして芝居をやっている中で、年々自分の中でも気づき始めたことは、役を演じること=“自分とは違う誰かになる”だけではないのかもと。今回の作品でいえば、私が演じるからこそ、それは間違いなく私の応為になるわけで、その意識がいいかたちで芝居にも投影できたらと思うようになりました。

 

演じるというより、“その人の中にも自分がいる”。これはいろんな作品を経験させてもらってきた中で段々と知ってきた感覚です。当たり前ですけど、役は自分とは違う人間なので、役を深めるために理解する時間は不可欠ですが、演じる直前にはその全てを手放して演じることが大切だなと。演じようとしちゃいけない。用意したものや自分のイメージを超えて、その瞬間に生まれるエモーショナルなものに忠実であろうと。

 

そして、永瀬さん演じる北斎とのシーンが多かったので、永瀬さんが現場で率先していい空気感を作り出してくださったことにも救われました。本当に北斎になろう、北斎に近づこうとする心や立ち姿からも、その場の居住まいからも、自然と“北斎”を感じさせてくれる。だから私も安心して距離を縮められたし、親子でもあり師弟でもある関係性が、言葉にせずともかたちになっていきました。なんだか、そのほうが粋であり、興が冷めないこともあります。

 

黙々と絵に向かう時間を共有したことで、二人のあの付かず離れずの親子関係が生まれたのだと思います。大森監督からも『芝居はしないで、長澤さんのままでいいです』と言われたんです。すごく久しぶりにそんなことを言われて、なんだか初めてお芝居をしたとき、初めて映画に出たときのような、まっさらな気持ちになりました。準備はする。でも現場に立ったら全部手放す。そこで生まれたフレッシュな感性を頼りにしていけたら」

©️2025「おーい、応為」製作委員会

NEXT PAGE

text:HAZUKI NAGAMINE
photograph:LOCAL ARTIST styling:KEITA IZUKA hair:TOMIHIRO KONO
make-up:NOBUKO MAEKAWA[Perle management] model:MASAMI NAGASAWA
cooperation:mesm Tokyo, Autograph Collection

©️2025「おーい、応為」製作委員会

otona MUSE 2025年11月号より

PEOPLE TOP

EDITOR

オトナミューズ編集部

オトナミューズ編集部

37歳、輝く季節が始まる! ファッション、ビューティ、カルチャーや健康など大人の女性の好奇心をくすぐる情報を独自の目線で楽しくお届けします。

SHARE

  • x
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • LINE

Pickup

Weekly ranking

VIEW MORE