「トレンドはチャレンジへのきっかけ」
4月号のカバーミューズは
春の新作を纏う宮沢りえさん
今月のカバーミューズは、我々にとって永遠の憧れのアイコンであり続ける女優・宮沢りえさん。ビッグメゾンの最新コレクションを纏った彼女は、その絶対的な存在感とオーラで1カットごとに異なる4つの女性像を表現してくれました。歳を重ねるということやファッションの楽しみ方など、普段なかなか知ることができない素の部分を語っていただいたインタビューもお見逃しなく。
予想もしないことが起こるかも
しれないからこそ、人生って面白い
―今日の撮影はいかがでしたか?
「やっぱりファッションはめぐるなあっていう感じがすごいしましたね。90年代前後こういう服着てたなとか、こういう服を着て撮影したなって感じました。それが逆に新鮮だし、今の人には新しいものとして受け止められるんですよね。私たち、時を重ねてきた女性にはちょっとした懐かしさもあり、そのことについて感じられる時間だったと思います。私は流行がよく分からないんですけど、でも、大変な時代を抜け出すためにパワーをみんな蓄えていて、そこから抜けたときに爆発して、いい意味で発酵するものがあって、それが流行につながるんでしょう。今はみんなが幸福に満ちた時間ではないと思うんですが、その反面、すごくエネルギーを蓄えている時間な気がします」
―80年代後期から90年代にかけて、それまでとは大違いのイケイケな時代がその爆発に近いですよね。
「そうですね。私はバブル時代に子どもだったから生活の中に景気のよさを感じるってことはなかったんだけど、仕事の現場は明らかにバブル。撮影の規模がとにかく大きかったし、予算があるってこういうことなんだなって記憶に残っているんです。クリエイターたちが自由にやりたいことをやらせてもらっていた時代だなとも思うし、売れることよりかっこいいことが一番のテーマだった気がするんですよね。当時、大人たちが何がかっこいいかを追求している現場にいられたことは財産だなと思うし、お金で買えない経験だと思っています」
―当時のお仕事ってそんなにすごかったんですか? 我々も子どもだったから当時の現場がどんな感じだったか知りたいです。
「今みたいにグリーンバックでCGでっていうのは無に等しかったので、海外にロケに行くことも多かったですよね。その当時、最新のグリーンバック撮影を経験しているんですが、今より500倍くらい時間がかかって、本当に大変でしたよ(笑)。今はめちゃめちゃ簡単だし、プロじゃなくてもアプリで加工が当たり前ですからね。だからこそ考えさせられるのは、現実ってどこにあるんだろうってこと。私もキレイに加工してもらうことがあって、時々これをいつやめようかって思うときもあるんですよね。今の世の中って、若いことが美しい、つるっとしたものが美しい、という基準があると思うんですが、それに対しての疑問は定期的に湧いているんです。自分が若いころにすごくかっこいい大人がいっぱいいて、その人たちはもちろん加工も何もせずにかっこいいシワを刻んだことを誇りに思っていらしたんですよね。でも、50歳を目前にした今、「(写真の)シワ消せますよ」って言われたら、ありがたく消してもらっちゃうんですよ。そんな自分に対して、いつも自問自答を繰り返していて、徐々にやめていけばいいのか、突然やめるのがいいのか、いつも考えてるんです」
―歳を重ねることって美しいし、かっこいいことだと思うんですけどね……。
「誰か始めないとね。ちょっと怖いのかな。若いコのインスタなんか見てると実際はどういう顔かなあって思うくらい加工されていて、その加工されたものとされてない自分、どっちが本当の自分だろうって思うだろうな、って。でもやっぱりありのままが魅力的でなければ人生の幸せは嘘になるんですよね」
―それ、まさにミューズの読者の大テーマなんですよ!
「ほんと? でも、この山を崩すのはなかなか大変ですね。これから先の時代はきっとどんどん架空のものを楽しむ時代になっていくんじゃないかって予感があるんですよ。でもその反面、そうじゃないものを求める人たちもい続けると私は信じてる。バーチャルが進歩していったら、舞台の上に立って芝居をするような、からだを酷使する必要がなくなるかもしれない。だけど、架空のものに絶対打ち勝つものがあると信じているし、そのことを楽しんでくれる人たちがずっとい続けてほしいんですよね。心にいっぱいひだができていくことは素敵だと思うけど、顔に刻まれるシワはよしとされない世の中に疑問が……。やだ、説教おばさんっぽくなってきた〜(笑)」
―とんでもない。みんなその葛藤を持っていますし、折り合いをつけるタイミングはどこかを探していると思います。
「AIが発達したら、お芝居もサイボーグでいいじゃない、ってことがあるかもしれませんよね。多分すごく完璧に何度でも同じことができて、求められることをできるんでしょう。でも、涙だけ流そうと思ったのに鼻水も出ちゃったとか、そういうことがないでしょうね。ハプニングがないことなんて何も面白くないし、何か予想もしないことが起こるかもしれないからこそ、人生って面白いんだと思うんです」
―今号の特集は春のトレンドなんですが、宮沢さんはトレンドについてどうとらえてらっしゃいますか?
「流行を自発的に追いかけることはないんですが、雑誌などで『今はこういうのが流行ってるんだ』っていうのは見ています。で、買い物に行ったとき、いつもならこの色選んじゃうけど、流行してるこの色にトライしてみようとか、チャレンジのきっかけにしています。何もトレンドがない世の中より、トレンドがあることによっていつもの自分の好みとは違うものを着てみたいって思えるほうが絶対に楽しいですよね。色や形、一点だけでも流行を取り入れるチャレンジをすることで、それまでと全く違う自分が出てくる可能性がありますから」
―ちなみに、宮沢さんの私服ってどんな感じなんですか?
「え? いつもこんな感じですよ(と、マイランのカシミアニットを指す)」
―宮沢さんがメディアで私服を披露することがほとんどないので。
「そうか。たしかにメディアに出るときはドレスアップしてますもんね(笑)。私が選ぶとしたら、素材がいいものかな。でも自分の中に絶対バランスみたいなのもあります。トップスがちょっと女性的だったらボトムスはちょっとメンズっぽいものにしたり。今日みたいにマニッシュでトラディショナルな感じのときは、足元をスニーカーにしてみようとか。ちょっと崩したほうが好きですね」
―洋服はご自身で選ばれます?
「全部自分で買いに行って選んでます。誰かに頼んで何かを買ったことがほとんどないです。買うのも見るのもすごく好きなんですよ、洋服が。いつになったら、買い物欲ってなくなるんだろうって期待してるんですけどね(笑)。私よりちょっとお姉さん友だちのソニア・パークさんとも、物欲っていつなくなるんだろうって言ってるくらい。なくならないと思いますけどね」
―なくなったらうちが困ります(笑)。
「そうだよね(笑)。ファッションに対して欲しいな、はいてみたいな、着てみたいなっていうトライする気持ちはずっとありますよね。だから、お買い物は空いた時間に思いつきで行っちゃう」
―最近の例でいうとどんなお買い物が?
「もうね……一目惚れの逸品が。ザ・ロウのカシミアのコートに出会ったとき、絶対に衝動買いする値段じゃないし、コート掛けるスペースって決まってるじゃないですか。いっぱいだからもうコートは本当いいって思ってたんですけど、やっぱり欲しいと2回くらい思ってしまい……(笑)」
―マイランにしろザ・ロウにしろ、長く大事に心地よく着られるものですね。
「手ごろな価格帯のものは若いころにちゃんと通過しているからこそ分かるんですよ。そういう豊かさを見つけていくのが、年齢を重ねることの特権かなとか思います」
profile_宮沢りえ
1973年、東京生まれ。日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を3度受賞。それ以外にも多数の映画・演劇賞に輝く日本を代表する女優。現在、日本テレビ『真犯人フラグ』、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演中。
model:RIE MIYAZAWA / photograph:SAKI OMI[io] / stylig:KEIKO SASAKI[AGENCE HIRATA] / hair:DAI MICHISHITA / make-up:MIKAKO KIKUCHI[TRON]
/ interview:MASAMICHI YOSHIHIRO