「ヤングケアラーをケアする環境づくりは絶対に必要」映画『若き見知らぬ者たち』磯村勇斗インタビュー
あぁ、上っ面だけじゃ人間関係も壊れるってひしひし感じました
――ヤングケアラー自身のケア問題は、喫緊の社会問題ですよね。しかも救われない若者がものすごくたくさんいるのに、表に出る術を持たないし、知らないし。いいタイミングでこの作品が世に出ますし、これが世に出たら、彩人を演じた磯村さんが彼らの理解者の筆頭株になれるんじゃないですか?
磯村 そこはやっぱりやっていきたいですよね。映画にしたからこそ、絶対に届いてほしい。彩人がヤングケアラーとして背負ったものを表現した僕にしかできないことがあるように思えます。といっても、当事者ではないので、どこまでどう力になれるのか分からないんですが、自分でできる限りの発信をしたいです。
――リサーチしてて、つらかったでしょう。
磯村 彼らを取り巻く環境の実態や、行政が動くべきところが機能していないこともあったりとか。ヤングケアラー自身もそうですが、彼らをケアする環境づくりは絶対に必要だと思います。そのことを知っていらっしゃる方はもちろんたくさんいらっしゃるんですが、知らない人が圧倒的に多い今、この映画をきっかけにちょっとでも広がっていけば、世の中が変わるきっかけになるんじゃないかって思うんです。
――本当に立派よ……。その通り。本来政治や行政が動かないといけないことが機能してないのに、行き過ぎた個人責任主義で、なぜかヤングケアラーは自己責任だと思いこんじゃってるんだから。彩人はその最たる例ですよね。
磯村 本当にそうですよね。岸井ゆきのさんが演じた、彩人の恋人・日向は看護師なので、彩人が抱えている悩みを理解できているんですよ。支え合える関係があるから、彩人はなんとか生きていられる。
――逆に彼女が全く違う仕事していて、なんとなく知ってる風な感じだったとしたら関係が全く違いますよね。たとえば、日向が「お母さんのためには〜〜したほうがいい」とか指摘するような子だったら……。
磯村 多分、彩人はキレるでしょうね。
――さすが。介護の現場って、知ってる人が口を出すのと、知ったかぶりして口を出すのとでは全く受け止め側の感覚が違いますもん。
磯村 彩人を研究していて、それはひしひし感じました。あぁ、上っ面だけじゃ人間関係も壊れるって。
――そうそう。それが一切なくて、支え合うだけの恋人って本当に理想的。だけど、そういったことに言及している映画やドラマってじつはこれまでなかったかも。
磯村 いい意見提示になると思っています。たとえば僕が肉親の介護する立場になったとしたら、彩人を演じた経験がすごく生きるはず。それはご覧いただく皆さんにもいい影響があると思っています。この作品でもリサーチで介護の現場にいきましたし、他の作品でも研修に行ったことがあるんですが、とにかく「何かを強制してはいけない」ってことなんですよね。それは患者さんはもちろん、ケアする人にも。あくまで人と人が触れ合っていることを忘れてはいけないし、人の触れ合いを大事にしないといけない、というのが介護の本質なんですよね。
――泣きそう……。
磯村 (笑)。なんでもそうですが、あれやれ、これやれ、とか指図することは、イコール強制なので。言葉で通じ合えないような病状だったとしても、絶対にイヤなはずなんですよ。だから、優しく接して、相手を尊重して声をかけあうというのは、すごく大事だし、人付き合いそのものの第一歩でもありますよね。
Photograph:KAORI IMAKIIRE
Interview & text:MASAMICHI YOSHIHIRO
styling: TOM KASAI
hair & make-up: TOMOKATSU SATO