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オトナミューズ編集部

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穏やかな時間にいつもとは違う景色がある。それくらいが心地よく、最高の旅なのだ。【風間ゆみえ連載】

IN THE MOOD FOR HOLIDAY By Yumie Kazama

 そしてもうひとつ楽しみにしていたのが、海のオルガン。戦禍により荒廃した街にもう一度平和を取り戻したいという思いから作られたというそれは、旧市街を抜けた先にある。陽の落ちた海沿いには電球の光に照らされた白いテントのおみやげ屋が続き、賑やかで楽しげな雰囲気にのせられてクロアチアと書かれたバッグを5枚買った。ばら撒きみやげのようだけど、薄紫で描かれたそのプリントがなかなかよくて、旅の思い出にもなるし、東京で使っていたらこの夜を思い出して楽しい気分になるだろう、なんてわりと気に入って買った。さらりとしたアドリア海の潮風を纏いながらそこへ近付いていくと、少しずつ耳に届き始める。ところどころでバイオリンやチェロの演奏が聞こえてくるから、一瞬音を探りながらも、はっきりとその音の振動がからだに響き広がり、それは宇宙の心音を思わせるような想像以上に大きな音。月に照らされ黒い海にキラキラ光り揺らめく水面を眺めながら身を委ね、気付けば、このボリュームの音をずっと聴いていたいと思っている自分にも驚いた。風や波、潮位によって、寄せては返す波が生み出す自然が奏でる音色。クロアチアの週末トリップは季節を変えて訪れたいと思わされるほど、いい時間だった。

 

 旅の後半はハンブルクからベルリンに移動して2泊。ドロテーエンシュタット墓地にあるジェームズ・タレルの教会(礼拝堂)で、毎晩21時に行われている光のインスタレーションを見に出かけた。この日はドイツ語の回で説明は少しも分からなかったけど、2本置かれた白いキャンドルに、変化していくLEDの色がにじんでいるのが特にキレイだった。翌日は朝をゆったりと過ごして、前回、また次に行こうとしていた素晴らしい温室を持つダーレムの植物園へ。そこは都会の喧騒から離れた美しいオアシスみたいなところで、温室は異国の地からやってきた植物たちが一堂に会し、まるで小さな世界旅行をしているような気分になる。湿気を含んだ空気、鳥が鳴き、熱帯雨林の息吹を感じるなか植物の多様性に魅了され、ただ植物を観察しているというよりも、自然そのものを享受できるような場所で、私は五感をフルにして楽しんでいたように思う。

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photograph: YUMIE KAZAMA

otona MUSE 2024年11月号より

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37歳、輝く季節が始まる! ファッション、ビューティ、カルチャーや健康など大人の女性の好奇心をくすぐる情報を独自の目線で楽しくお届けします。

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