デミ・ムーアの限界突破の怪演がスゴい! 映画 『サブスタンス』が突きつける過剰なルッキズムへの強烈なアンサー

ちょっとした時間があるとき、未見の映画やドラマに手を出したいんだけど、分かんないから好きなのを繰り返し観ちゃう……という方。映画ライターよしひろまさみちが実際に観て偏愛する作品を、本音でおすすめしますよ〜。
よしひろさん、「きのう何観た?」
『サブスタンス』
story かつての大女優エリザベス(D・ムーア)は、50歳を迎えて最後のレギュラー番組降板で崖っぷちに。そんなとき、怪しげな再生医療の誘いに乗り、“サブスタンス”という医療キットを注射する。瞬く間に彼女の細胞は分裂を始め、破れた背中から若く美しいもうひとりの彼女“スー”(M・クアリー)が……。
監督・脚本:コラリー・ファルジャ/出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド ほか/配給:ギャガ/公開:現在、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー中 © The Match Factory
★若くありたい、と思い込んでいる方へ★
公開前から話題沸騰、公開後も賛否ばっくり割れまくりの『サブスタンス』。もうご覧になりました? じつはあたくし、映画賞のからみで昨年の暮れに初めて観たときに「こりゃ絶対に意見割れるけど話題になるわ」と思いつつ、ハマり過ぎて6回おかわりしたんですよね。で、ちゃんとしたスクリーンでさらにおかわりしたくなり観てきましたところ……時間おいて観たせいか、最初に観たときに感覚とはまた変わったの!
年齢を理由にキャリア崖っぷちになったエリザベスが、怪しい再生医療のサブスタンスに手を出したところ、猛烈な細胞分裂でもう一人の彼女「スー」が爆誕。片方が休眠して片方はアクティブという1週間ずつの入れ替わりをしていれば、どちらもハッピーに過ごせます……が、それを破ったら「わかっとるな!」という鉄の掟があり。当然破るんですけどね。これをもし、90年代くらいに作っていたとしたら(無理だけど)、エリザベスとスーが生まれる原因となった「キモイ昭和のオヤジたち」は出てこなかったでしょうね。きっと自己責任のもとに若さに固執する女性のドタバタコメディに……って、それは『永遠に美しく…』(92)でやりきってました。
美=若さって思い込んでいる方ほど目と耳に痛いお話なんですが、ちょい待ち。その価値観、誰が作った? といえば、この作品でやたらめったら気持ち悪く描かれているオヤジたちなんですよ。要は男! それっておかしくない? だって、自分の人生は自分のものだし、美しさのものさしだって自分で作るもの。なのに、世間一般にある(あった)ルッキズムって 、若いことが最上級の美しさ、ととらえられてません? そこにNOをつきつけた問題作だったわけですよ。
最初に観たときもそれは痛いほど分かったし(それゆえに賛否の否側の人は男性だろうな、と思ってた→当たった)、うまいこと醜悪に描いてくれとるわい、と思ったもんですが、時間を経ておかわりするとそこが最強にキモい。キモ過ぎる。なので、若さに固執する人ほど、この映画を観て「あれ? 今のままでも十分イケてるじゃん!」ってこと確認してちょうだいね。
分裂してもひとりなの
スーちゃん、大ブレイク
エリザベスは嫉妬と怒りの嵐
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1972年、東京都新宿区生まれ。大学在学中からゲイ雑誌『バディ』編集部で勤め始める。卒業後、音楽誌、情報誌、女性誌などの編集部を経て独立。『sweet』、『otona MUSE』(共に宝島社)で編集・執筆のほか、『an・an』(マガジンハウス)、『家の光』(家の光)、『with』(講談社)、『J:COMマガジン』(J:COM)など多くの媒体で、インタビューやレビュー記事を連載。テレビ、ラジオ、ウェブなどでも映画紹介をするほか、イベントでの解説、MCも。ゴールデングローブ賞国際投票者、日本アカデミー賞会員、日本映画ペンクラブ会員。