「30代で唯一の後悔は、旬を過ぎたオバサンだと思った時期があったこと」作家・LiLyが語る現在地
― あらためて、今回一旦筆を置く、その理由を教えてください。
「エッセイを中断するのは、実はこれで2回目。1回目は大好きだった人と別れて、違う人と結婚することを書いたとき、ブログが大炎上して初めて赤裸々に書くことのリスクを痛感したから。そこで『オトコシリーズ』に終止符を打ち、4年間は小説執筆に専念して、あらためて今の『オトナシリーズ』がスタート。前回は元恋人や元夫に申し訳ない気持ちがあったけど、今回は子どものプライバシーを守りたいというのが最大の理由。息子と娘も思春期を迎えて、愛情を込めて書いたことでも、やっぱり彼らの人生の詳細は彼らだけのもの。親として一旦黙っておこうかなと」
―― そうやって、当事者でありながら、自分を客観視して、徹底的に俯瞰して書く。その姿が印象的です。
「それ、編集長のカヨコが上手に言語化してくれたことがあって。私は骨の髄まで恋愛体質で、ラブを発端とするエモーショナルな事象が大好き。でもカヨコ曰く『そういう人はだいたい主観が強い。でもLiLyさんは、たとえるならば、卵の中に黄身がふたつ入っているタイプ。クレイジーだけど論理的。それが才能なのでは?』と言葉にしてくれたんです」
―― ちなみに、それは才能だと思いますか? それとも努力?
「努力というより『そういうふうにしか生きられない』という意味で、本来は欠落だけど、才能寄りかも。主観だけで生きるには頭が回り過ぎるところがあって、そのままではどうにもバランスが悪い。だから人生のサバイバルメソッドとして客観能力を磨くしかなかったのかも」
―― さらに魅力的なのは、リズム感と疾走感のある独特の文体。これはどうやって生まれたのでしょう。
「そう言ってもらえると嬉しい! というのも、私は音楽がすごく好きで、でも歌手になりたいと思ったことは一度もなくて、むしろ音楽を聴き続けながらできるのが執筆業だから天職なのかも。でもとにかく音楽はずっと聴いているから、言葉にリズムが乗っているかどうかは、ものすごく重要。書きながら、母音を揃えたり、句読点を置く場所を吟味したり。BPMを整えて、リズムある文体を作って指先で踊るように書いています」
photo:RK text:MAHO HONJYO illust:ekore
otona MUSE 2024年8月号より