【アカデミー賞直前集中連載】1/3
ジョン・カビラさんに聞きました。
「今年のアカデミー賞、どうなりますかね?」
『生中継!第94回アカデミー賞授賞式』
今年もWOWOWにて独占放送されますよ!
LA時間3月27日に開催されるアカデミー賞授賞式(日本時間では28日)。今から結果が気になるところですが、そのへんのところ、長年授賞式の中継番組で案内役を務めているジョン・カビラさんに、映画ライターよしひろまさみちが話を聞いちゃいました。でへ、対談よん。
2022年のアカデミーは、授賞式前に
ほとんどの作品が観られる特別な年!
よしひろ(以下よ) 何年もオスカー中継の案内役を担当されてらっしゃいますよね。
カビラ(以下カ) 2007年の第79回からですね(今回で15回目)。(マーティン・)スコッセッシ監督の『ディパーテッド』が作品賞などを受賞した年ですよ。心から感謝です!
よ 長! 当時からオスカー候補の作品は授賞式前にチェックされていたとは思いますが、全部観るのは大変でしょう。
カ いや『ディパーテッド』のころから考えると大変な進化ですよ。作品にアクセスできる時間と頻度が高まりましたよね。僕の経験では初めて、授賞式前に候補作が配信と劇場でほとんど観られる年。これはすごいことです。もちろん配信サービスの隆盛ぶりが当然そこにあるわけですが、逆に言えばコロナ禍で選択の余地なくこうなってしまったという部分もあるので、本当に劇場で映画を観たいという方にとっては痛し痒しという状況ですね。
よ 本来であればやっぱりスクリーンで観たいですもんね。
カ いやー、それはそうですよ。音響技術の皆さんのことを考えるとね。もちろん配信でも報われますよ。でもやっぱり最先端の一番いい音響で、一番照度の高いスクリーンで観たい。大きなスクリーンで観たい。没入体験が映画の価値じゃないですか。その世界にどっぷり2時間、『ドライブ・マイ・カー』の場合は3時間、その世界に浸かるというのが映画の価値ですよね。以前は「これほど最高の予告編はありませんよー。日本ではWOWOWでアカデミー賞中継を観るのが最高の予告編です!」と言ってました。ところが今回予告編どころか、アメリカのリビングルームでああでもないこうでもないと言っていた人たちと同様に予想ができるという特別な年。WOWOWのHPで是非ノミネーションリストを確認して頂いて、ああでもないこうでもないと予想してもらいたいですね。
よ あたしら映画ライターと一緒に、皆さんも朝から盛り上がってくれ、と思いますよ〜。おっしゃるとおり、これまでのオスカー候補・受賞作は、日本では公開が遅かったですから。
カ え? 今観たいのに夏まで待たなきゃいけないの? って感じでしたよね。映画が好きで好きでたまらない素晴らしい皆さんはもちろん、「アカデミー賞の作品かー。観に行ってみようかなー」というライトな皆さんまで、そのグラデーションは毎年色々取りざたされますけど、今回はグラデーションなにそれ? 全部観られる! というのが最大のポイント。
3時間、映画の世界に没入できる
『ドライブ・マイ・カー』天才!
よ カビラさんはもう何本かご覧になりました?
カ まだ『ベルファスト』が観れてないんですけど、ほとんど拝見しました。なんといっても、『ドライブ・マイ・カー』。3時間ここまで没入させてくれてありがとうございます、濱口監督!
よ 完全に同感です。
カ こんなに感情の起伏が穏やかながら、実は深淵なるテーマを扱っていて、観客の皆さんこうするともっと理解してくれるだろうなーというフラッシュバックが全くない。説明のための編集がない。ないというよりも必要としない構成になっている。すごいことだなと思って。基本的にタイムラインがリニアで進むのですごいことだなとも思いますね。
よ 私も天才が来たと思いました。今までの作品もすごいものばかりでしたが遂にこの域まで達しましたか、と。
カ 僕は評論家ではないので、いちムービーバフ(映画大好きっ子)として観てるだけなんですけど、観終わった後、家に帰って妻の顔をしげしげと見てしまいました(笑)。
よ (笑)。家福(西島秀俊が演じた主人公)ですか。
カ うちの夫婦の間には重大な秘密も問題もないと確信してますけど、本当に愛する人をどれだけ理解しようとしているのか、もしくは自分をどれだけ理解してもらおうとしているのか。日常の営みの中にそういったものが埋没してないかということを柔らかく突き付けてくれますよね。
よ 村上春樹さんの原作だからというのもあるでしょうが、絵作りも含めて新しい。
カ こんな言葉少ないロードムービーありますか? と思いますよね。最後の最後にデスティネーション(行先)がでてきますけど。こんな車内で、それもチェーホフの台詞(劇中劇「ワーニャおじさん」)が有機的に入ってくるじゃないですか。
よ あれ本当に天才的ですよね。元々ある台詞がまさかの家福の心情をちゃんと表現するなんて、あんな技どこで身に着けたのかしらと。
カ そしてあの重大な秘密をあの早い時期に知ってしまうわけじゃないですか。それと向き合わないわけですよね、一切。そこでまずひとつの衝撃。ネタバレかな……(笑)。ハリウッドの作品だったとするとそこで爆発がある。その秘密を知った瞬間に大転換がある。ところがないわけですよねえ。
よ で、これどうなるの? と言っていたら急に芸術祭の方にいってしまう。
カ 西島秀俊さん演じる主人公が俳優を辞め、その2年間のブランクは推し量ることもできませんけど、あ、自分を取り戻して新たな旅を始めるんだなという、その旅の中で、チェーホフの「ワーニャおじさん」。主人公と三浦透子さん演じるドライバーが交わす車の中の言葉の少なさ。なんて天才的な構成なんだろう。
よ だって天才ですもん、濱口さん。
カビラさんとよしひろさんの映画愛溢れるトークはまだまだ続きますが、本日はここまで。次回は3月22日(火)に公開予定。お楽しみに!
interview & text:MASAMICHI YOSHIHIRO / photo:YOSHIKUNI NAKAGAWA(JON KABIRA)