また私の腕に戻ってきたアンティーク時計と、“グレー”で満たされた好きの世界【風間ゆみえ連載】
愛用中のヴィンテージ時計にまつわるストーリーを語ってくれたゆみえさん。その時計のベルトのようなシックなグレーを中心に、ゆみえさんの“好き”を並べて――。
数年前、京都のアーツ&サイエンスで一目惚れしたアンティーク時計。ネイビーの革ベルトで裏側が深い赤になっているところも気に入って、しばらく愛用していたけど、近ごろは出番も少なくしまったままになっていました。
ある金曜の夜、花屋の軒先でビオワインを飲めるバーで知人に紹介された、アンティーク時計のお店を営んでいるという桜井さんに「ちょうど見てほしい時計があるんです」と相談したことから、早速、その時計を持って彼の店を訪ねました。桜井さんは、小さなルーペを覗き込んで「いい時計ですね……」と私の時計の素敵なところを話し始めるから、「この時計手放そうと思っています」、そう話すと、少し間を置いて「使ってほしいなぁ……」「え、そう、ですか……?」「はい、僕は使ってほしいなって思います」。なんとなく古びた感じがしっくりこなくなっていたのですが、やけにその言葉が胸に響いて、「私にもそのルーペを貸していただけますか? この子の顔をこんなに近くに見たの初めてです」。
1960年代の生まれのこの時計は温かみのある黄みがかった白いフェイスで腐食か、青緑色のものが12時と1時の間くらいに見えて、全体的に少し汚れて曇った感じの印象だった。「これ綺麗になりますか?」「ん、なんとも言えないけれど、一度確認してみますね」。革ベルトを新調して色を変えてみようかな。実はこの時計、先日手放したのだけど手元に戻ってきたところで。そこでさらに桜井さんに使い続けてほしいと言われたりして、この時計とはご縁があるのねぇ……と思い巡らせ、可能な限りでキレイに清掃してもらいました。ベルトもいろいろ着せ替えてみて桜井さんもすすめてくれていた、グレーが今の私にも一番しっくり。私の腕の上でご機嫌そうです。
photograph_TAK SUGITA[Y’s C](model,still), MAYA KAJITA[e7](cutout) / hair & make-up_NOBUYUKI SHIOZAWA[mod’s hair]
otona MUSE 2023年9月号より