LIFESTYLE

フリーアナウンサー 小山瑶の
海外生活 in Germany
Epi.11 「街を歩く ベルリン編」

2人の男性( 旧ソ連のブレジネフ書記長と旧東ドイツのホーネッカー書記長)が熱い接吻を交わす『独裁者のキス』
ドイツ・フランクフルト在住でフリーアナウンサーの小山瑶さんが、現地で暮らすからこそ得られるディープで旬な情報を教えてくれる連載。アナウンサー、そしてジャーナリストとしての視点を交え、ドイツの情報をいろんな角度からお伝えしていただきます。今回はいつもとは視点を変えて、ドイツの歴史を巡る旅に。西ドイツに住んでいる小山さんにとって、ベルリンを起点として見る東西ドイツの文化の違いは、驚くことがたくさんあったそう。

ベルリンで語られる
忘れてはならない歴史

ロシアとウクライナの戦争が勃発してから、改めて耳にするようになった「冷戦」。軍事力で直接戦う戦争は起きなかったため、軍事力(火力)で直接戦う「熱戦」「熱い戦争」に対して、使用された言葉です。 第二次世界大戦後、ドイツはアメリカ、イギリス、フランス、ソ連の4国に支配されることになりました。首都であったベルリンを起点に、東側はソ連軍が、西側はアメリカ、イギリス、フランス軍が占領することに。東西の冷戦が本格化すると共にドイツにもその影響が及ぶようになり、その際に建設されたのがThe Berlin Wall。誰もが一度は聞いたことがある「ベルリンの壁」です。長さは155km(日本で例えると東京〜静岡間)高さは約3m。この分断された時期は、1961年から1989年の28年間にも及びます。
東西ベルリンの境界線上に置かれていた国境検問所(チェックポイント・チャーリー)にて見つけた、当時のベルリンを表した掲示物

東西ベルリンの境界線上に置かれていた国境検問所(チェックポイント・チャーリー)にて見つけた、当時のベルリンを表した掲示物。

ドイツ ベルリンの壁画と小山遥

街の至るところにベルリンの壁の一部が展示されています。この壁を越えようとした200人近くの人が命を落としているそう。なかにはトンネルを掘って東ドイツからの脱出に成功した人もいるのだとか。

Ostbahnhof(ベルリン東駅)近くにある「イーストサイドギャラリー」には、世界中のアーティストが残ったベルリンの壁の一部をベースに描いた作品が並ぶオープンギャラリーがあります。なかでも有名なのが、風刺を込めた2人の男性( 旧ソ連のブレジネフ書記長と旧東ドイツのホーネッカー書記長)が熱い接吻を交わす『独裁者のキス』(コラムトップの写真)。
イーストサイドギャラリーの壁画

壁が崩壊する前にも有名画家などがたびたび絵を描きに訪れていたそう。イーストサイドギャラリーの作品はどれもメッセージ性のある作品ばかりで目を引きます。

消えない旧東西の格差

壁が崩壊してから30年近くが経っていますが、最近の選挙では移民排斥などを謳う右傾化が取り上げられたりと、まだまだ東西の差は埋められていないのが現状のようです。人口も旧東ドイツは旧西ドイツの3分の1ほどです。 興味深い話だったのが、ビールの売り上げは旧東ドイツの方が旧西ドイツに比べて若干多いということや、旧東ドイツの女性は自立していて、旧西ドイツに住む男性からモテるということ。また、連邦政府職員における旧東ドイツ出身の女性は7割を占めるそうです。姉さん女房的なしっかり者が多いのか? 同じ国でもこんなに違いがあるなんて、驚きでした。

ちょっとした遊び心が光る
アートな街ベルリン

「ベルリンの信号機可愛くない?」という夫の一言。私が鈍感なのか彼が敏感なのか? 確かに私の住む街で見かける信号機と形が違う…… アートな街だから信号機ひとつをとっても街独自で信号機を作っているのかと思い調べると、これもまた東西ドイツの歴史が関係していました。
小山瑶 こやまはるか ドイツ ベルリンの信号機

人の形をしている信号機「アンペルマン」(アンペルがドイツ語で信号を意味します)。ベルリンの8割がこの信号機なんだとか。今ではドイツの諸地域シュトゥットガルトやリューベックでも使用されているそう。

ドイツが2つに分断されていた1961年、旧東ドイツの交通心理学者が歩行者向けに可愛らしい人形をモチーフにした信号機を開発しました。「止まれ」は、両手を広げている赤の男の子、「進め」は、帽子をかぶっている緑の男の子で表現されました。 ドイツ再統一の際にアンペルマンを廃止して旧西ドイツ規格の信号機で統一しようという流れがあったのですが、この可愛らしいアンペルマンのデザインを懐かしむ人や親しみのある人たちにより、ベルリン州の正式な歩行者信号機がアンペルマンに決まったそうです。このような旧東ドイツの時代を懐かしむ風潮をドイツ語の東=Ostと郷愁=Nostaligieをもじって、オスタルギー(Ostalgie)と言います。 ★ベルリンを巡っていると、このような分断させられていた時代のものがあちこちに残されており、歴史を後世に伝えていこう、という意思を感じました。今こうしてドイツに移住することになり、私もこの大きな歴史の歯車のひとつだと感じています。
小山瑶 こやまはるか ドイツ ベルリン

アンペルマングッズがベルリン土産で人気。再統一後に、アンペルマンの女のコも誕生しています。ステッカーやマグカップやグミなど600種類を超えるグッズが販売されています。

ベルリン発祥⁉ 絶品B級グルメ

ケバブと言えばトルコ! と思う方が多いと思います。もちろん私もそのうちのひとりでした。ベルリンにはベルリンに行ったら絶対に食べなければ後悔してしまう! というB級グルメ「ドネルケバブ」があります。ケバブとはトルコ語で焼肉料理の総称で、そのうちのひとつ、薄い肉を塊にしたものを回転させながら焼いたものがドネルケバブ。今回はドネルケバブの発祥の店に行ってきました。 1960年代に労働者不足に悩んでいたドイツ政府が、働き手としてポーランドやトルコ、ベトナムから労働者を受け入れました。そのことがきっかけでドイツへ移民としてやってきたトルコ人が始めたお店がこの「Mustafa’s Gemuse Kebep」。長蛇の列に並んででも食べる価値があると言われている、世界中にファンを持つ大人気店です。 お店の前で作っている様子をじっと観察していたら、長蛇の列を並んでいた酔っ払った外国人となぜか仲よくなって、私たちの分まで買ってくれるという超ラッキーな出来事がありました。(3時間並ばなくて済みました!)
ドネルケバブ店の前の小山遥とラトビアの旅行客

後ろに見えるのがドネルケバブの肉の塊。ドネルは、トルコ語で回転を意味する。彼らはラトビア人で、旅行中との話でした。

小山瑶 ケバブ

€7ほど。肉のジューシーさと揚げた野菜の旨味、フレッシュな野菜がたっぷり入っていて絶品でした。私的No.1ケバブ!

そしてベルリンといったらカリーヴルスト(カレーソーセージ)。ソーセージの上にトマトソース、さらにその上にターメリックやクミンなどを原料としたスパイスをたっぷりかけたファストフードです。これがまた美味しく、 ビールにもよく合います。付け合わせは、ドイツに来てから大好きになったポメス(フライドポテト)! 最高の組み合わせです。 カリーヴルストは、1949年にベルリンの女性が屋台で販売したことが起源と言われていて、ソーセージ屋を経営していた彼女が客引きのために発案したと言われています。ベルリンにはカリーヴルスト博物館があるそうで、訪れなかったことを後悔しています…… ドイツ全土で年間8億本ものカリーヴルストが消費されているほど、国民的に愛されているファストフードのようです。
カリーヴルストとポメス €4.5

値段はポテトとセットで€4.5。おやつとしても食事としても大人気。ベルリンだけでもカリーヴルスト専門店が50店舗近くあるそう。

ベルリンはとても広く、アートに溢れ、歴史も深い場所なので見所がたくさんありました。ユダヤ博物館にも行きましたが、ドイツに住んでいる者としてドイツの歴史を学び直すよいきっかけにもなりました。国は同じといえど、地域によって文化や言葉のイントネーションまで違う。まだまだ知らないドイツを知ることができて刺激的な旅でした。また訪れたい街です。 今回の旅はベルリンだけではなく、ライプツィヒにも足を運びました。ちょっぴり街の様子をお届けします。
トーマス教会の前のバッハ像と小山遥

作曲家バッハが自ら演奏を務めたオルガンが設置されているトーマス教会の前には、バッハ像が。週末にはオルガンコンサートが行われているそう。

マルクト(市場)で販売されていたクリスマスリース

マルクト(市場)で販売されていたクリスマスリース。€10ほどで販売していました。こうしたクリスマスの装飾が段々と増えてきました。

ドイツではすでにクリスマスマーケットが開催されています。次回からは何回かに分けて、本場のクリスマスの様子をたっぷりとお届けします。みなさん今年のクリスマスプレゼントは何にしますか〜? 早くサンタさんが来ないかな〜? Frohes Weihnachtsfest!
小山瑶

Profile
小山瑶(こやまはるか)/山形県のテレビ局で4年間アナウンサーとして勤務し、今年4月からフリーアナウンサーに転身。(ニチエンプロダクション所属)ドイツ・フランクフルトで勤務する夫に帯同。暮らしぶりをSNSで綴っている。

text : HARUKA KOYAMA

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