「人って変わるし、変わることは進むこと」東京から長野、ハワイから沖縄へ。吉川ひなのと語る移住ライフ
本当の意味での“暮らし”は楽しい
—お二人が東京を離れて得たものは。
K 土と菌がもたらしてくれたものは、私の場合は暮らしだった。東京ではやりたい仕事をやらせてもらって、楽しいし充実もしていたけれど、今思うと暮らしではなかったんだよね。ひなのちゃんにしても、ハワイに行ってからのひなのちゃんの暮らしの立て方は見ているだけでも本当に癒やされた。
H わたし、長女を妊娠中にハワイに来て初めて、こんな日々があるの? って衝撃を受けたの。朝起きて、深呼吸をして、窓を開けて、「今日もこんなに空がキレイ」って感動して。別にただそれだけなんだけど、こんな毎日があるだなんて知らなかったから。
K 先輩! 私、今がその真っ最中です。毎朝、「今日も目が覚めた!」と心が動くし、当たり前のことなのに、同じ日も同じ瞬間もないって実感しながら生きている感覚なの。
H 目が覚めただけでワクワクするよね? 安心して眠ることも幸せなんだけど、楽し過ぎるから本当はずっと起きていたい。生きているだけでこんなに幸せなんだって胸がいっぱい。
K おっしゃるとおり。100%同意です。私にとって、幸せをもたらしてくれるのが、暮らしそのものだったんだなって。
H 数年前からなんだけど、わたし、趣味は暮らしですって言っているの。暮らしって楽しい。
K おおっぴらには言えなかったけれど、暮らし系の雑誌に出てくる、丁寧な暮らしをしている人たち、絶対嘘だと思っていたの(笑)。取材のときだけでしょ? と疑っていたけれど、今なら分かります。暮らしって日々のつながりの上に成り立つものだから。
H わたしは、沖縄でもまた畑をやりたいなって思って、移動中に空いている土地がないかチェックしてるんだ。ハワイでしていたように、鶏を育てたいし、動物のフンで土が豊かになって、植物が育って、わたしたちが食べて……その繰り返しをずっとしてきて、その生活が本当に大好きだったし、たぶんどこの土地に行ってもそういう生活をしていくと思う。沖縄で暮らし始めたのは、どこか気分転換と新しいチャレンジに導かれているのかも。何かやることがあるって。
K ひなのちゃんの話を聞いていて、私もそうだと思う。土地に呼ばれるってあるよね。私は長野に移住して、初年度に50年に一度の大雪に見舞われて、洗礼を受けたばかり(笑)。猛吹雪のときはただただ人間はじっとしていることしかできなくて、できることがないから諦める。その時間に、絵を描くとかダーニングで靴下を繕うとか、今までやってこなかったことをコツコツ進めていて。できることをやるしかない時間なんだけど、薪ストーブの前での作業はすごく楽しくて、豊かで。東京にいると、台風であっても何かしらできちゃう。でも、どうしても敵わない大自然から享受するものも、こんなにたくさんあったんだと。
H わたしは東京に暮らしているとき、家は待機所みたいな感覚だったの。暮らす場所ではなくて、仕事と仕事の合間に休憩するだけ。
K 分かる、その気持ち。仕事が終わって、家には帰るんだけど、家は癒やしの場所ではなかったかも。疲れ自体は、例えば旅に行って外で癒やす。その繰り返しだったかな。
—移住は、傍から見ると人生の大きな決断であり、転機でもあると思うのですが、東京を離れることに不安は?
K 全然! 私、東京にいてできること、主に仕事ですけど、全てやりきったんだと思います。ひなのちゃんもハワイで10年暮らして、また新たに舵を切ったわけだけど、ひとつやりきったから次に進めたと思うんです。私もメイクの仕事を30年間やってきて、もう出し切ったし、心残りもない。だから執着せずに拠点を動かせたのかも。不思議なことに手放してみると、文章を書く、絵を描くといった憧れだった仕事で依頼をいただくことも増えて、ひとつ終わると新しく始まるものがあると実感しています。
H 何があるか分からないけれど、とりあえず行ってみようって感じだよね。行ってみたら絶対に何かがあるから。わたしの場合は、ハワイでの10年間はすごくキラキラしていて、その間に見て見ぬフリをした部分に新しい場所で向き合って、解決していく時間にしていきたい。不十分だった部分に目を向けようって。
K 陰と陽、光と影の両方があってコンプリートするからね。またそれが完成したら、ひなのちゃんは次のステージに行くんだろうね。人生はやりつくさないともったいない。
H そう、楽しく、楽しく、深掘りしていく。
K 移住したからといって全てが上手くいくわけでもないし、新しい土地で暮らせば、そこでの悩みや問題にも直面するわけで。生きている限りは、どの道を選んでも途中経過で、ハッピーで終わるほど単純ではないなって感じる。
H 本当にずっと途中のままだよね。
K これからも何か起こるだろうし、起こるかもしれない。だからこそ執着せずに。深みと軽やかさを同時に持ちつつ、いかに自由に行き来できるかが今後のテーマかもしれない。
H 人って変わるし、変わることは進むこと。
K 分からないから楽しい。だからこそ、今の自分の心が満たされるような、最善の選択を重ねていけたらいいよね。
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photograph: ©YUYA SHIMAHARA ©saikocamera ©AFLO
interview:HAZUKI NAGAMINE
otona MUSE 2025年6月号より
EDITOR
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