【満島ひかりインタビュー】創作の最初のチームメンバーは「過去の自分たち」。MV撮影の舞台裏を語る
INTERVIEW WITH HIKARI MITSUSHIMA
役者として数々の物語を生きながら、音楽を中心としたもうひとつの表現の場を育んでいる満島ひかりさん。その活動の輪郭が、自身のクリエイションレーベル“rhapsodies”を通して浮かび上がる。

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連想が連想を呼ぶように自然にかたちになってゆく
昨年主演を務めた映画『ラストマイル』は、多くの観客に愛され爆発的な大ヒットを記録。現在も公開を控える出演作が複数ある満島ひかりさんに、インタビュー冒頭、「ずっとお忙しい日々を過ごされていたのではないですか?」と、問いかけた。ありふれたその問いに、満島さんは少し笑いながらこう答えた。
「目まぐるしい日々でもあるけど、忙しいという言葉とは違う進み方で……なかなか答えるのが難しい質問ですね。イマジネーションを豊かにしながら、確かな選択ができるスキルを身につけていくと、たくさんの余白も暇も生み出せるようになっていて……」
無意識に応じてしまいそうな問いかけにも、感覚の流れにわずかな違和感を覚えると、そっと風向きを変える。そのささやかな身振りのなかに、満島さんらしい繊細な感受のあり方が滲んでいた。
「潜在意識の中にある目を向けたくない自分の姿とか、ちょっと恥ずかしいくらいドリーミーな感性とか、それとは逆に外の世界と繋がるための第六感のようなものまで包んでくれるのが、音楽の豊かさだなと感じます。お芝居をするときとはまた違って、社会を生きる人間でいなくてもいいというか。たまに人間じゃない役柄や性別を超えた役柄もあるので一概には言えないけど、音楽の中の時間とお芝居の時間は、少し違う領域にあるような気がします」
そう話す満島さんは、2年前に始めたばかりの自身のクリエイションレーベルrhapsodiesから今年の春、ニューシングル「LOST CHILD (Prod. MONDO GROSSO)」をリリースした。
「ある日ラジオから流れてきた「LOST CHILD」のメロディーと歌詞に惹かれて、気づけば何年も、ふと口ずさんでいました。この名曲を歌い継ごうと決めた自分に驚きます」
2001年に藤原ヒロシ+大沢伸一 feat. クリスタル・ケイ名義で発表された「LOST CHILD」を満島さんがカヴァー。大沢伸一さんがリアレンジを手がけることで、本作は新たなかたちへと生まれ変わった。制作の過程では、香りや情景、気分など、五感のイメージを頼りに大沢さんとやりとりをしたという。
「カッコつけないで、愁いを隠さないままで大沢さんの音の世界に立てたらと思うんです」
当時、満島さんはインド・ジャイプールに滞在していた。
「幻想じゃなく、現実の美しさが、歌詞の世界とリンクして漂ってくるようでした。“ピンクシティ”と呼ばれるジャイプールの夕暮れは、みんなをやわらかい桃色の光に包んで、薔薇の花びらがそこら中に落ちていて。寺院の前では、ヒンドゥー教徒の人々が薔薇水をまとって、街路では男たちが楽しそうに首飾りを編んで。花の香りと光、街の喧騒とネオンがもう、名作のアジア映画のようにリアルなんだけどロマンティックで、振り返ると失くなりそうな切なさも含んでいて。「LOST CHILD」への新しい解釈がやってきたんです」
その印象を込めて、薔薇の香りのキャンドルにメッセージカードを添え、大沢さんに贈ったところ、「キャンドルを焚きながらアレンジしています」と返信が届いたという。「連想が連想を呼ぶように、自然と曲がかたちになっていく。そのプロセスがとても楽しかったです」
interview & text:NANAE MIZUSHIMA
photograph:MAI KISE styling:TOMOKO KOJIMA
hair:TETSU[SIGNO](p15-19), HIROKI KITADA(p14,20-21)
make-up:MICHIRU[3rd] model:HIKARI MITSUSHIMA
otona MUSE 2025年8月号より
EDITOR
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