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オトナミューズ編集部

【満島ひかりインタビュー】創作の最初のチームメンバーは「過去の自分たち」。MV撮影の舞台裏を語る

創作のはじまりのメンバーは過去の自分たち

 作品としてかたちを与える、もっと手前の段階。言葉になる前の感覚の領域を、日々耕すようにして丁寧に向き合っている。そんな印象を抱かせる満島さんの創作の土壌は、いかに育まれてきたのだろう。


「意識したり考えたりすることと、野放しにしていたらぶつかる偶然とが、シンクロするタイミングがいつもあるんです。生きてきた39年の間に出会った人たち、訪れた場所、起きた出来事、そこで感じた感情や空気が、ある瞬間にふっと“今”に寄ってくる感覚があります」


 実際、創作をはじめるときにいちばん最初に集まってくるのは「過去の自分」だと重ねる。
「ある日ふいに浮かんだアイデアにも、それに至るまでの感覚の歴史のようなものがあって。だから、本当の最初のチームメンバーは、過去の複数の自分かもしれません」


「LOST CHILD (Prod. MONDO GROSSO)」のミュージックビデオ制作においても、そうした歴史を垣間見る。舞台となったのは、満島さんの友人家族がかつて暮らしていた、思い出の詰まった海辺の家。映像ではその家を「解体すること」がひとつの終着点として描かれている。


「林響太朗さんに監督をしてもらえたのも、素敵な必然でした。いくつか提案していただいた撮影アイデアの中に、“女性が家の前で踊る”というイメージがあったのですが、それを見た瞬間にあっ!と」


 思い浮かんだのは、2年前。自らの手でその家を建てた“友人の父親”と交わした言葉だった。「『自分の手で建てた家を解体しなきゃいけないんだけど、余裕がなくてね』っていうお話を聞いて、『いつかその家を映像に残してから解体するのもいいかもしれませんね』なんてお互いに盛り上がっていたんです。その“いつか”が、巡ってきたんだと思いました」
 完成した映像では、モノクロのスクリーンのなか、赤いドレスを纏った満島さんが家の記憶とともに踊る姿が収められている。


「赤いドレスは、大沢さんにリアレンジをお願いしたときにいくつか挙げたキーワード、“ワルツのリズム” “花嫁と花婿が去った後の薔薇の花びら”から響太朗さんが提案してくれました。映像をモノクロにするアイデアは、配信と合わせてリリースしたレコードのジャケットから着想を得たようです。その写真は、俳優の坂東龍汰さんの作品撮りに参加したときの素敵な写真で、映像の中で解体した家は、坂東さんが子どものころに過ごした家でもあるんです」


 海辺に家がある。赤いドレスを纏う。映像はモノクロ。それだけの要素で「撮影チームそれぞれが、内側にある幼い記憶とか大切なことを想える、自然で優しい空気の現場になりました」と話す。


「あまりにストレスがなさ過ぎて、“おっとっと”とよろけそうになるくらい。負荷を軽くすることには慣れてきたけど、これからは自由をコントロールする筋力を意識したいと思うほどでした」


 そして、その撮影の舞台裏を記録したのは、本誌の撮影を担当した写真家・黄瀬麻以さん。誌面では、記録の一部を特別に掲載している。


「もうすぐ解体される家を相手役にして踊るって、イメージするだけでロマンティックな時間ですよね。そしてとっても寂しくもありました。リハーサルの日にはみんなで海に沈む夕日を浴びて、撮影の朝はみんなで朝食を食べて。最後の日、壊れていく家に、失うことと再生する力の両方を見た気がします」


 力みのある関係は、自らの力みから生まれていたんだと自覚しているという満島さん。日々経験を重ねる中で「自分だけや数人の力だけでは作れない。関わる全員で一緒に作れたら、作品以上になれるんだ」と実感するようになった、とも。


「自分たちが船長になって、大きなものの力を借りない作品作りは、今まで経験してきたことや出会ってきたことを活かせる場にもなっていて面白いし、感謝が溢れてきて、好きです」


 舵を取らず、導かれるように進むその姿勢には、子どものころに描いていた「錬金術師」という夢の面影も重なる。異なるもの同士をつなぎ、かたちを与えていく創作は、点と点を星座のように結びながら、物語を立ち上げていく営みにも似ている。そうやって満島さんが自分自身をほぐしていった背景には、日常のなかで育んでいる生活の感覚がある。


「今いちばん心地いいなと感じるのは、近所にある行きつけのお店に通う時間かな。仕事や学びの息抜きに、お散歩がてら“ハロー”なんてお喋りしながら近況を報告し合って、たまたま同じお店にいた方とも話して。職種はさまざまにお店を営む友だちが多いので、私の人生にないものを見たり聞いたりする時間を豊かに思います。当たり前だけど、街にはたくさんの暮らしがあって、同じ日は二度となくて。私には、“画面の中”で濃厚な一瞬を過ごす時間も、“画面の外”で世界中の人たちと循環する日々も愛しいです」

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interview & text:NANAE MIZUSHIMA
photograph:MAI KISE styling:TOMOKO KOJIMA
hair:TETSU[SIGNO](p15-19), HIROKI KITADA(p14,20-21)
make-up:MICHIRU[3rd] model:HIKARI MITSUSHIMA

otona MUSE 2025年8月号より

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37歳、輝く季節が始まる! ファッション、ビューティ、カルチャーや健康など大人の女性の好奇心をくすぐる情報を独自の目線で楽しくお届けします。

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