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夏木マリさんが貫く、「自分らしさ」とは? 【前編】

夏木マリ
その表現は多岐にわたり、もはや肩書という枠に収めるなんてもってのほか。憧れと畏怖が混在した鮮やかな存在感を持つ夏木マリさんが、“自分らしさ”を分かり始めたのは40代に差しかかったタイミング。人から与えられたものではなく、自分でこれと決めた道を歩み始めてからのことだったそう。

自分の好きなものを
人生の真ん中にして生きる。
それが自分らしさへの道筋

夏木マリ

黒地にマゼンタピンクのよろけ滝縞小紋、黒とシルバーの細縞に唐辛子と赤蕪の刺繍名古屋帯、紫の三分紐※全て参考商品(全て雨庵)、陶器の帯留¥18,700(五福×雨庵/THE COVER NIPPON東京ミッドタウン)、[左手]ダイヤのリング¥506,000、[右手・人差し指]パールと蝶のリング¥528,000、[薬指]ダイヤのリング¥462,000(全てシンティランテ/イセタン サローネ東京ミッドタウン)

「みなさんも、私ぐらいのお年頃になったら自分らしさは勝手についてきますよ」 大丈夫よ、そうなだめるような柔らかな口調で、夏木さんが振り返ったのは転換期となった30〜40代のころの自分。 「40歳前後というのは、昔の感覚でいえば人生の折り返し地点でもあって、立ち止まって人生について改めて考える時期。私自身が自分の拠りどころみたいなものを見つけられたのも40歳を過ぎてから。2023年に30周年を迎える『印象派』というシアターワークを手掛けるようになって、やっと自分が“自分らしく”なれた。30代の10年間は、ドラマや映画といった映像作品に費やす時間が多かったのですが、元々、私は演劇が特に好きなわけではなくて、誘われるままにやっていた状態。それはそれで面白さも分かるし、やりがいもあって満たされてはいた。でも、周りにいるみんなほど夢中にはなれず、“なんかいいな”止まりだったのかもしれません。おそらくオファーでいただいた仕事だけに取り組んでいる生き方では心が満たされなかったのでしょうね。人様に観ていただくことも好き、プレイヤーとして舞台に立つのも好き。けれど、与えられたものをやっているだけでは自分らしくない、と」

失敗こそが生き甲斐―。
人間は失敗から学習する動物だから、
たくさん失敗を楽しみましょう。
ダメなら捨てて、いいものだけ残していく。
私はとにかくやっちゃうタイプ。
やってみなきゃ分からない、それが人生の面白さ。

自らの手でゼロから生み出し、発信してみよう―。それが、前述した『印象派』へとつながっていった。企画や構成、演出はもちろん出演もする。今や夏木さんのライフワークとなっている。 「思いきって自分の舞台を創ってみる。それは、もう崖を飛び降りるようなものでしたけど(笑)、自分の好きな表現を詰め込んで発表できる唯一の場所でもありました。多くの失敗を重ねてきたけど、もし、いただいた仕事だけでこの30年間を過ごしていたら、今のようにはなっていなかったと思います。創作の面白さは自分を知ることにつながっていき、好き嫌い、要不要など発見や気づきの連続があって、取捨選択も少しずつ上手になりました。日常では人や世の中と折り合いをつけて、ときには妥協しなきゃいけないときもあります。人間はひとりじゃ生きていけないから誰だってそう。でも舞台の上だけは、何とも折り合いをつけずに自由に堂々としていられました」

人間は一度にたくさんのものは抱えられない。
ひとつ選んだなら、ひとつ手放さなきゃ。
無闇にしがみつこうとすると、
自分らしさからは遠ざかるばかり。
最も純度の高い“好き”を自分の中心に据えて。

夏木マリ

黒地にマゼンタピンクのよろけ滝縞小紋、黒とシルバーの細縞に唐辛子と赤蕪の刺繍名古屋帯、紫の三分紐※全て参考商品(全て雨庵)、陶器の帯留¥18,700(五福×雨庵/THE COVER NIPPON東京ミッドタウン)、[左手]ダイヤのリング¥506,000、[右手・人差し指]パールと蝶のリング¥528,000、[薬指]ダイヤのリング¥462,000(全てシンティランテ/イセタン サローネ東京ミッドタウン)

大きな決断をしたとき、選び取った未来があった一方で、手放した未来もあったという。それが結婚と子どもだった。 「子どもが欲しいとは思っていたけれど、当時はパートナーもいなかったですし、年齢も含めて、子どもがいる未来はあのときにきっぱりと諦めました。『印象派』で生まれた作品を自分の子どもとしようと納得させた。結婚は、のちに59歳で縁がありましたけど、人生は何が起こるか想像がつかないものです。人生も中盤に差しかかると、せっかく手に入れたものを手放すのは怖いし、難しいことなんだけど、人間は一度にいろんなものを抱えられはしない。何かひとつプライオリティーを定めたなら、それ以外は諦める覚悟が必要だと思います。しがみつこうとすれば、目も心も曇って、自分らしくいられなくなってしまうから。私の場合は、ひとつ選んだのが『印象派』だったけれど、それが家庭であったり、子育てであってもいい。なんでもいいんだけど、“これが好き”というものを中心に据えて生きていくと、その生き方が段々と自分らしさになっていくと思います」 その思考は、夏木さんのエッジのある革新的なビジュアルにも反映されている。 「具体的なアイテムやブランドはなくて、自分が着ていて気持ちのいいものだとか、その日の気分、ときには自分を高めてくれるようなものを身に着けることくらい。最近着ている服は、もうほとんどZARAですから。コロナ禍の間にポチポチするのを覚えちゃって、(私服で着ていたグリーンのニットを指差して)今日もZARAですよ。ハイブランドと組み合わせて着るのも好きなんです。撮影現場に行くときは、着心地のいいスエット、少し気持ちが沈んでいるときは、ちょっといいジュエリーを身に着けて、石のパワーに助けられるときもあります。着ていて好きなのはエッジのきいた系統なのかもしれない。ほら、年齢を重ねるとオーガニックになってくるじゃない? 麻素材とかベージュとか、それは私らしくないと思って」 また、夏木さんの象徴ともいえるのが、ツーブロックの潔いショートヘア。 「髪の量が多くて困っていたら、『刈り上げてみます?』と提案されて、このヘアスタイルになったんです。きっかけなんてそんなもの(笑)。ブロンドやオレンジ系のカラーにするとファッションをたちまち楽しく彩ってくれるのでお気に入り。ファッションもヘアメイクも自分が楽しむもので、私はただ、私が好きなスタイルを続けてきただけ。自分ではよく分からないけど、その積み重ねがあって、こうして何かしらイメージを持っていただけるようになったのかもしれないですね」
夏木マリ

夏木マリ
1973年デビュー。演劇で活躍の場を広げ、1993年に自身が企画・構成、演出を手掛け、出演までする舞台『印象派』をスタート。2023年はデビュー50周年、『印象派』30周年、支援活動「One of Loveプロジェクト」15周年、清水寺奉納パフォーマンス「PLAY×PRAY」が10周年を迎える。2023年1月期ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』(毎週火曜22時〜TBS系にて放送)に出演。

オトナミューズ2月号「貫け!自分らしさ」のトップを飾ってくださった夏木マリさん。後編もお楽しみに!

photograph:HIRO KIMURA[W] / styling:YOKO AKIZUKI / hair:SHOTARO[SENSE OF HUMOUR] / make-up:SADA ITO[SENSE OF HUMOUR] / interview:HAZUKI NAGAMINE

otonaMUSE 2023年2月号より

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