PEOPLE

7月号の表紙・安藤サクラインタビュー 「その場でつくる仕事だから毎回何度やっても楽しい 」

安藤サクラ インタビュー

本誌初登場! 7月号の表紙を飾ってくれた安藤サクラさん。大ヒット公開中の映画『怪物』について、試写を観た撮影スタッフ一同、前のめりになりながらしっかりお話を伺ってきました。本誌の大特集「Tシャツとラグジュアリー」を体現したファッションシューティングと併せてお楽しみください。

安藤サクラ インタビュー

バッグ¥451,000、リング¥75,900(共にグッチ/グッチ ジャパン)、Tシャツ¥19,800(ステップ アヘッド)、その他はスタイリスト私物

怪物だーれだ? 私の想像をはるかに超えてきました

—是枝裕和監督の最新作『怪物』では、主人公の一人、湊の母親・早織を演じられています。完成版をご覧になっていかがでしたか?

 

「初号を観て号泣しました。主演の2人の輝きに心が震えて、涙が止まりませんでした。観終えて、2人の顔を見たら、また大号泣。私が演じたパートが前半だったこともあり、自分が出ていることも忘れて最後は主演の2人の時間にぐっと引き込まれました。

 

 生きとし生けるもの全てが愛おしく“しゃーないやん、人間なんだもの”と温かく抱き締めたくなりました。だれも怪物なんかじゃない、どこにも怪物なんかいやしない。“しゃーないのよ”と。脚本を読んだとき、今までの是枝監督の映画をイメージしながら、今までの坂元さんの作品で感じたリズムで読んでいて、そこに自分は入るのが怖かった。でも全然想像していたものとは違った。是枝さんの作品でも観たことのない人の映り方をしていたし、坂元さんの作品でも観たことのない時間が流れていました。完成版は、現場で撮っていた時間や脚本を読んだ印象、全て私が想像していたものとは別次元のもの。私の想像の貧しさを恥じましたね。監督は、出演者の人間性の魅力を最大に活かす力があるんだなと思いました。“役をつくる”というのではなく、物語の中で生きていく道を探してもらっている感じです」

—私たちも拝見してびっくりしました。こういうお話になっていたとは、と意外な展開で。そんな脚本を最初に読んだのはいつごろですか?

 

「実はこの作品、コロナ禍が始まる前にいただいていたので、読んだ当時はすごく悩んだんですよ。でも、結果的には出演したことは本当によかった。章立てになっているのですが、最初に出てくるのが私演じる早織という役だったので、母親目線での怒りとか、子どものことを心配する気持ちで読んでいきました。そのとき、最初に読んだ気持ちや感覚をすごく大切に残しておこうと思ったんです。主演である2人の子どもたちをいかにサポートするか。助演という立ち位置がものすごい課題になるな、と思いながら、現場に挑みました。いろいろな視点から描かれている物語なので、私の役がどう動くかによって、物語を魅力的にできるか、ということも課題だと感じていました」

—撮影はどのシーンからだったんでしょう?

 

「校長室のシーンです」

え、あの? この作品で一番最初に大荒れの?

 

「難しいと思うことがたくさんありましたが、撮影中はみんなとおしゃべりして、なるべくリラックスした時間を過ごすようにしました。監督が脚本も務めた『万引き家族』のときは、作品に漂うようにそこにいる、ということをしていたんですが、この作品は坂元さんの脚本なのでちょっと違う。監督が望むものはなんだろう、と具体的に何かを探りながらテイクを重ねていったという感覚でした」

安藤サクラ インタビュー

不穏なシーンでも笑いが絶えない現場

—不安はありました?

 

「それがとても楽しくて(笑)。あまり知らない現場だったら不安とプレッシャーで、どんどんネガティブな気持ちが出てきちゃうんですけど、今回は全くそういうことがなくて、テイクを重ねれば重ねるほど楽しかった。最初の校長室のシーンなんてずっと笑ってましたよ」

—あのシーン、とても笑えるもんでは……。

 

「それぞれの役がやってることをよく観ると、本当におかしいんですよ。人が怒ってるときに飴を舐め始める人がいたり、突然鼻頭を触ったり、当たり前の仕草が全くなくて。それがおかし過ぎて。一度、笑いが止まらないまま私が出るタイミングになっちゃったんですが、それをみんな分かってるから、共演者も笑かしにきちゃったり」

—たしかに、こんな人が本当にいたら、怒りを通り越して笑っちゃうかも。

 

「それに、脚本を読んだときは、素直に自分の役の気持ちになってしまったので、他の人のパートはあまり読み込んでいなかったんです。自分の気持ちを持っていかれないようにしないと、って思っていたので。最初に読んだときに感じたことを大事にしよう、って思ったのは、そういうところにも反映したんですよね」

—早織と湊のマンションのお部屋や、早織の衣装など、細かいところまで「あぁ、小学生の男のコがいる環境」と思ったんですが

 

「そうなんですよ。あのお部屋は、実際に湊くんくらいの息子さんがいるご家族のお宅を1カ月くらいお借りして撮影していたんです。もちろんそのまま使ったのではなく、美術部がいろいろと足していって、撮影に挑んだので、そこの奥様も“いや、元のほうがもうちょっとキレイですよ”っておっしゃってたくらいなんですけどね(笑)。監督が持ってらっしゃったイメージは“季節外れだけど、クリスマスの飾り付けがずっと残ってしまっている部屋”だったそうで、それほど荒れているわけではないけれど、ちょっと散らかっているみたいなこだわりがあったんですよ」

—監督のこだわりといえば、具体的な芝居の部分ではいかがでした? 何か指示は?

 

「すごく具体的に指導がありました。例えば、足の裏に髪の毛がついたときの居心地の悪さ、とか、ホラーな感じとか(笑)。“ホラー映画みたいに”っていうのはけっこうありましたね。もっと怖いものを見る感じ、っていう意味合いだったり、居心地の悪そうな感じだったり、っていうことを、そのように表現されて、私たちもそれを楽しんでやっていました。『万引き家族』のときは、私自身が是枝監督の現場が初めてだったこともあって、今回とは全然印象が違いました。多分、私たち役者との関係性が影響するのかな、とも思いますよ。ざっくばらんに話しやすい関係になっているのといないのとでは、演技指導も変わってくるんじゃないでしょうか」

安藤サクラ インタビュー

個性だらけの現場で感じた演じる仕事の楽しさ

—安藤さんご自身は娘さんがいらっしゃいますが、息子がいる、という役についてはどうアプローチされました?

 

「これが全然分からない(笑)。撮影の当時、私の娘は4歳の幼稚園児ですし、私自身も女きょうだいですからね。小学生の男の子がいる母親ってどんなだろう、年ごろの男の子に対して母親がどう接するのか、とか。本当に全く分からなくて。親が子に触れる、という行動ひとつとっても、湊くんみたいな年ごろの男の子と、幼稚園児の女の子では全く違う意味が出るでしょうし。そこはとてもデリケートに考えて、監督に確認しながら演じていました」

—自分の子育てについて考えさせられたり?

 

「う〜ん……うちはまだ5歳だから、これからどうなるかを早織と湊の関係と比べたりすることはありませんでした。ただ、難しいな、と思ったのは、湊くんの水筒に泥が入ってたり、靴が片方だけなくなったり、自分の息子がいじめの被害にあっているところ。うわー、こういうことがあるかー、と、素直にびっくりしましたし、早織の心の動きを丁寧に探っていきました。でも、台本に全て書いてあるんでね。それを現場で表現するだけなんですよ、私たちって」

—自然……天才……。

 

「いやいや(笑)。人によって違うのかもしれませんけど、皆さんとおなじですよ。例えば営業の方が、クライアントさんに合わせてその場その場で全力投球するみたいな。毎回同じマニュアルで動いているわけではないんですよね。演じるという仕事は、共感するとかではなく、その場で生まれるものが楽しいから、毎回何度やっても楽しいんだと思うんです。だからこそ、心の動きよりも、フィジカルな芝居のほうが大変だし、私は大好きなんですよね」

—主役である2人、黒川想矢さんと柊木陽太さん以外、全員ベテラン俳優だからみんなそういう感じでやられているんですね。その分、彼らのサポートをする感じ?

 

「そうですね。彼らもとても立派なお芝居をするので、子どもっていう意識すらなかったかな。実は私、自分の娘に対しても“子どもだから”っていう意識はあまりないんですよ(笑)」

—安藤さんからみて2人はどうでした?

 

「すごくしっかりしてました。特に想矢くんはとても繊細な部分がある子で、いろんなことに思いを巡らせていくタイプ。だからこそ、余計な不安を持たせたらいけない、って思って、彼には“大丈夫だよ”みたいな会話をよくしていました。私も不安をたくさん持ってしまうタイプですし、私が彼くらいの年齢のころも、彼と同じように考えていることを溜め込んじゃいがちでした」

—では、アドバイスもできた?

 

「私が考え込んでしまったときは、ノートにそのときの考えを書き込んでいたんです。だから、彼には割と上等なノートをプレゼントしました」

—陽太さんには?

 

「彼にはただただ楽しそうで可愛いものをプレゼント(笑)。ほんと、2人が全くタイプが違っていたんですよね。その分、逆に私が彼らの言うことひとつひとつをきちんと受け止めようと、彼らが言う言葉をしっかり聞くようにしていました」

—子どもたちだけでなく、大人も個性だらけでしたよね、この作品の現場。

 

「本当に。是枝監督の作品に、坂本龍一さんの劇伴がついていることもすごいと思いますし、それが坂元裕二さんの脚本で、っていうのも、この作品ならではですよね。私のシーンだと、先生方を演じた皆さんが本当に個性豊かで、最高に面白かった。しかも、先生ひとりひとりが“こんな人いるの!?”って思ってしまうような人たちだから、笑いが止まらない(笑)。コメディではないし、観た方それぞれ考えさせられることは間違いないんですけど、現場ではみんなが楽しくお芝居していたことが伝わればいいな、と思います」

profile_安藤サクラ(あんどう・さくら)。1986年2月18日、東京都生まれ。07年の『風の外側』で俳優デビュー。2014年に姉・桃子が監督を務めた『0.5ミリ』と自薦応募した『百円の恋』で共に主演を務め、第39回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得。2018年の『万引き家族』がカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞し、俳優として国際的に高い評価を得た。

『怪物』

『怪物』

舞台はある大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子どもたち。それは、よくある子ども同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子どもたちは忽然と姿を消した—。

監督:是枝裕和/脚本:坂元裕二/出演:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太 ほか/配給:東宝、ギャガ/公開:6月2日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

© 2023「怪物」製作委員会

ノベライズ本も発売!

『怪物』 ノベライズ本

映画の公開に先駆けて、完全ノベライズ版が絶賛発売中。最強タッグによる映画の世界観を小説でも。

※結末は映画公開まで“秘匿”でお願いします。¥770(宝島社)

安藤サクラの着こなし編はこちら

photo_TISCH[MARE Inc.] styling_SHINICHI SAKAGAMI hair_AMANO make-up_KANAKO HOSHINO model_SAKURA ANDO interview&text_MASAMICHI YOSHIHIRO

otona MUSE 2023年 7月号より

PEOPLE TOP

SHARE

  • x
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • LINE

Pickup

Weekly ranking

VIEW MORE