「関わる作品の価値を高めることで、現場の状況も変わる」Netflixシリーズ「さよならのつづき」主演・坂口健太郎が語る俳優としての現在地
――「さよならのつづき」では脚本開発段階から参加したと伺いましたが、そうした意味ではゆとりのあるスケジュールだったのですね。
坂口 そうですね。時間もちゃんとあったし、例えば日本の地上波の連続ドラマだとどうしても3・4カ月で10話くらいを撮らないといけないため、粘れないときがたくさんあります。僕自身、そうした現場を長く経験してきたので最初はやはり戸惑いました。この先に「もしかしたらこれもできたんじゃないか」が発生してくると想定すると「この段階でここまで時間を使っていいのか」「果たして時間を有意義に使えているのか」といった感覚になってしまったときもありましたが、長い時間関わらせていただいた分、現場では「あれだけ粘った結果のこの一瞬で120%を出さなきゃいけない」とモチベーションにも変わりました。そう考えるとすごく贅沢な時間でした。
――今回は坂口さん自ら「もう一回撮りたい」と提案されたこともあったそうですね。粘れる現場だったからこそかなと思いました。
坂口 本作のクランクイン前日まで撮っていた地上波ドラマは「よく乗り切れたな」と思うくらい過酷なスケジュールでしたが、それはそれで一極集中できる側面もあります。どちらがいいかは難しいところですが、ちゃんと段取りを重ねて時間をゆったり使っていいものをチョイスできる環境を経験して、自分のなかで選択肢が増えた感覚はあります。
「さよならのつづき」がNetflixという配信作品であることも印象的です。正直、僕が5年前にドラマや映画の現場でやってきたことと現在は全く変わりません。ただ、配信サービスの台頭によってそれを観てもらえる環境が大きく変わり、国を越えて届くようになりました。分母が増えることで世界各国で自分の出演作を観てもらう機会が増えて、そうすると役者もスタッフも、作品に関わるさまざまなものの価値が上がっていく――ということを体感しました。それは今までの自分にはなかったことですし、「価値を高める」はいま一番取り組まないといけないことだとも考えています。
どんなに名作を作っても観てもらえなければ価値は生まれないと思いますし、僕のことを知らない方がたまたま出演作を観て「坂口健太郎」という役者を知って、他の出演作を観てまた別の役者さんを知ってくれて――というような動きが生まれれば、相対的に日本のドラマや映画に対する価値がちょっとずつ上がっていくのではないでしょうか。
自分のやっていることはこれからも変わらないけれど、価値が変われば状況は変えられます。タイトな制作スケジュールに対して「これじゃ無理だよ」とは思いますが、なぜそうなるかというと皆もそうしたいわけでは決してなく、さまざまなものが足りていないから。だったら僕がもっともっと自分の価値を高めて、ゆとりあるスケジュールで皆が集中できる環境を作るしかない。いまはその意識が、とても強くなっています。
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Interview & text:SYO
Photograph:KAZUYUKI EBISAWA[MAKIURA OFFICE]
Styling:TAICHI SUMURA[COZEN inc]
Hair & Make-up:HIROSE RUMI