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梨花50歳、考え始めた「梨花の終わらせかた」と「50代、これからのキレイの作りかた」独占インタビュー

2023年6月号梨花

5月21日に節目となる50歳の誕生日を迎える梨花さん。10代のころからモデルとして第一線を走り続けてきた彼女が語るこれからの『梨花』について。ファッションシュートとインタビューで、「人生第三章の幕開け」に迫ります。

こだわりの大半を捨てた

 「『好きに生きてそうだよね』とか『自由そうだね』って、以前からすごく言われるんです。それってある意味正しいと思っています。誰かに何かを強要させられている活動は、ないから。もし、みんなの目に私が楽しそうに生きていると映っているならいいことだと思うし、『実態と違う!』と反論したい気持ちもありません。でも多分、周囲の人とか、昔から応援してくれている一部のファンの方からは見抜かれている気がするんですが、私って結構考え込んでいるタイプだし、神経質。こだわりも強いし、自分で決めたことはこだわり抜いて生きてきました。なんだけど!  50歳を前に、そういうのをぶわーって、一気に!  捨ててみたんです。やっぱり、50って数字にすると結構な年齢で。50歳になるんだ、どうしたらもっと楽しく生きていけるかなと思いをめぐらせたときに、『こだわりはもう、要らないな』って。縛られたくないなって。もう必要ないよって、自分で自分を解放してあげられた気がするんです」

プラダ 梨花 otona MUSE オトナミューズ 50歳インタビュー

ランジェリーのようなディテールをアウターに昇華させたガウン。“内と外”の融合が見つけた新しい美しさを。コート¥374,000、ガウン¥660,000、シューズ※参考商品(全てプラダ/プラダ クライアントサービス)

私は人生第三章の、まだまだルーキー。
ひよっこです

 「人生って、何章かに分けることができると思うんです。人によって違いはあると思うけど、私の場合、大きく分けたら三章に分かれる気がしていて、『梨花』になるまでが第一章、『梨花』になってからが第二章。今は第三章の、一番初めの段階。だから第三章としては一番の若手なの。気持ちとしては、新しいおうちに引っ越して、家具とか揃えてウキウキの状態ってあるでしょう? その感じです。

 第二章の『梨花』は細くあることにストイックであったけれど、ここからはまた第三章の『梨花』を作っていけばいい。そう思ったら、なんだかすごく楽しくなってきたんです。昨年発表した、AKN/Rというブランドで掲げているスローガン『もう一度、自分を好きになる』と一致しましたね。でもね、年を取るのが楽しいわけじゃないですよ(笑)。楽しいわけないじゃないですか、大変ですよ。年を重ねることが素晴らしいなんて私、一回も思ったことはありません。でも、もうね、究極の話……、死んじゃうから、何十年か後には(笑)。あ、今すごく死を意識しているわけじゃないです。病気になったわけじゃないです!  でも少なくとも今までよりは『おちおちしてたら死んじゃうぞ』という危機感は、確かにあります」

 ここまでまっすぐ目を見て「年を取るのは楽しくない」と少しだけ年下の私たちに言ってしまえる、梨花さんの嘘のなさ。そして「どうせ死んじゃうんだから、いつかは」とあっけらかんと笑っている様子は、まさにパブリックイメージの明るい梨花さんそのものではないだろうか。厚生労働省の『簡易生命表(令和3年)』によると、2021年の日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳。ご存じの通り日本は世界一の長寿大国。人生100年時代などとも言われる現在、50歳の梨花さんはやっと、折り返し地点だ。まだまだこれからですよと言ったら、先ほどまでよりちょっとだけ真剣な顔で梨花さんが問いかけてきた。「周りの人全員が、絶対に、平均年齢くらいまで生きられていますか?」と。

 「絶対に全員が、80代まで生きられるわけではないですよね。本当に一番大きなきっかけは、大げさじゃなく『ああもうこれは、死には近づいている』年齢だと実感したこと。全員が80代まで生きられるわけじゃ、ないんです。そうなるとあと20年、30年は人生が続くと確約されていない。そんなの、あたりまえのことなんです。なんだけど、実感すると恐ろしくなりました。そして私は死ぬときにどうしているのかな、って。みんなは定年退職とか、勤め上げて余生をどう過ごすか考えようかと、なんとなく決まっている流れがあると思うんだけど、私の『梨花』としての定年退職って、自由なんです。死ぬときも『梨花』なのか。死ぬ前に『梨花』を退職して仕事をぜんぜんしていない自分でそのときを迎えるのか。どんなことを考えるのか。まだ分からないけれど、自分の人生どうだったかなーって思いをめぐらせると、やっぱり『梨花』のことは入っちゃうと思うんですね。どの時期の『梨花』を思い出すのかな。オトナミューズの撮影かな。バラエティ番組に出ていたころなのかな(笑)。そうなるとやっぱり『終活』じゃないけれど、これからを楽しむためにも『梨花』を整えていってあげたいとは、思っています」

梨花 スポーツマックス otona MUSE オトナミューズ 50歳インタビュー

今季のテーマは「感覚的刺激」。アシンメトリーなデザインや、大胆なボリューム感が生み出す楽しさを本能のままに受け取って。トップス¥83,600、スカート¥185,900(共にスポーツマックス/マックスマーラ ジャパン)、ソックスはスタイリスト私物

『梨花』の終わりについて

 ここでカギカッコつきで記載している『梨花』は、モデルとして芸能人として活動する梨花さんのことを示している。梨花さんはよく、仕事をしている自分のことを『梨花』と、自分自身と少しだけ分けたジェスチャーを交えて話すことがある。梨花さんの本名は『千恵子』。たくさん恵む子。思いやり、いつくしみ、たくさん恵まれる子。どちらにしても梨花さんの人生そのものを表しているいい名前だと思う。興味深いのは、仕事をしている『梨花』、プライベートの『千恵子』と明確に切り分けることはなく、仕事をしているモデルの自分についてのみ『梨花』と、抜き出して話すところだ。どうも話を聞いていると『梨花』と『千恵子』で分けているわけではない。外では『梨花』の仮面をつけて家では『千恵子』に戻る、という意識であれば、この言い方にはならないと思う。自分の中の仕事をしている『梨花』という部分をどうしていくか考えて「あげたい」と言うのだ。

 「50歳くらいでまだまだ人生知った気になってはいけないと思いますが、これまで流されて生きてはこなかったとは、自負しているんです。苦労は買ってでもしてきたとまでは言わないけど、わりとストイックに生きてきたとは思うから。少し前、主人にね、『梨花』でそのまま死ぬんじゃなくて、あと何年か仕事をしたら引退して『梨花』じゃなくなった私と人生を一緒に過ごしてみたいって、言われたんです。

 一瞬どういうことか分からなくて理由を聞いたら、私を見ていて。やっぱり撮影前にピリピリしたり、ごはんを食べたいのにからだを絞るためにガマンしたりしている様子を見ていて、そういうことを一切気にしないで、死ぬ前の何年かを過ごしたら楽しそうだなあって、思うんだよー、って。そんなことをポロッと言われたときに、ああ、考えたことがなかったなあ、って。私はすごく『梨花』に感謝しているし、考えたことすらなかったんだけど、確かに。そういう生き方も、あるなあ、って。だから初めてそういうことを意識したときに『梨花』をどうやって終わらせるかについて考えたんです。ダラダラ終わらせられるから『そういえば最後はいつ仕事しました?』『んーっと、7年前かな』みたいなことだって、できるわけでしょう。わざわざ引退を発表する必要なんてないのかもしれない。引退せずにそのまま『梨花』と一緒に棺に入ってもいいし、『梨花』としてどこまでやれるか決めて、けじめをつけるのもありだなあ、って。とても大切にしてきたものだからこそ、きちんと考えてあげないといけないなと思ったんですね」

 2023年1月中旬、2週間後に日本でオトナミューズの撮影を控えた梨花さんのインスタグラムのある投稿はあらゆるサイトでネットニュースになった。「わたくし今、体重MAX炸裂中であります」という書き出しで始まるその投稿は、ドーナッツを頰張りながら自身の体重の増量を揶揄した映像。普段は48㎏か49㎏、日本での撮影前にはいつも47㎏になるように調整し、前回の帰国時は多忙ゆえ45㎏まで落ちていた体重が現在51㎏であることを赤裸々に告白、撮影までに調整することを誓った内容。コメント欄は「ふっくらしているくらいが幸せそうでいい」「ヤセている=美しいと受け取れる価値観を発信してほしくない」とさまざまな意見が飛び交ったし、2月中旬までオトナミューズ編集部員である筆者はあらゆるところで質問攻めにあった。「梨花さんはヤセることができたのか」「一体何キロで撮影に臨んだのか」。みんな、ひとりのモデルが太ったかヤセたか、そんなに気になります!?  途中からは「誰だと思ってるんですか、梨花さんですよ!  しぼってくるに決まってます!」と叫ぶしかなかったほどヘアサロンで、エステで、アパレルのプレスルームで、本当に、ありとあらゆる女性に聞かれた。一方、過去の撮影の日に、おおかたの撮影が終わったランチタイムに、本当に美味しそうに白米を頰張っている梨花さんの姿が脳裏に浮かんだ。私たちにはあえて言わないが、撮影前の数日、断食するくらいはあたりまえ。撮影日は早朝からお風呂でむくみを取り、リンパマッサージを行ってからスタジオ入りするなどあらゆる手段でモデル・梨花としてベストを尽くしてきた。「昨晩飲み過ぎて、二日酔いで……」などとだらしない状態でスタジオに現れたことはオトナミューズでは一度もなかった。そう話すと「前の日にお酒を飲み過ぎるなんて、そんな恐ろしいこと、絶対できないです」と笑う。

梨花 スポーツマックス otona MUSE オトナミューズ 50歳インタビュー

 「ご興味がおありなら……、体重としては今回だいたい49.2㎏くらいにして撮影に挑みました。けれど断食して落とした程度の体形だから、自分では全くいいとは思っていません。ただ体形についてもここから研究しようと思っています。私はキレイになりたい、可愛くなりたいということにはこれからもとっても貪欲で居続けると思うんです。やっぱりね、ヤセにくくなる年齢なんですよ、50歳って。だから今度病院に行って、エストロゲンの数値を測って、足りないホルモンの数値を叩き出して、アレしてコレして〜って、ちゃんと対策したらからだがどういう感じになるのか、半年くらいかけて作っていこうかなって考えています。ストイックにじゃなくて。そういうことを『あれ、楽に生きるって言っていたのに、結局また努力するのかな』と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。でも、私の気持ち的にはぜんぜん違うんです。今までは『どう写真に映りたいのよ、私!』って、自分に対してストイックに、追い詰めて、追い詰めてきたんです。カバーガールをやらせていただいている以上、それは自分の使命だと思っていた。できないんだったら降りたほうがいいよ、と自分に対して思ってきたんです。その厳しさはね、今もあります。そこは残りの2割、こだわりを残した部分だから。でもなにって、実験したいの。ちょっといいコスメを新しく使ってみるみたいに、楽しんでからだ作りに取り組みます。残したこだわりの2割、それは『オトナミューズのカバーモデル』だから。撮影のとき、やっぱり少しお肉があると服が似合わなくなっていると感じて、それって誰より自分自身の気持ちが上がらないんです。だから体重が何kgうんぬんにこだわる気はなくて、自分が上がる努力は今までと違うかたちでしていこうと思っているの。細くなくていいんです。今までとは違う、50代の、ここからの。自分がキレイに見える体形など外見の研究は今からしていこうと思うし、お洋服も何が似合うか、どんな仕事が楽しめるのか。だから今はこれまでとは違う、ここから作れるワクワクがあるんですよ」

梨花 ロエベ otona MUSE オトナミューズ 50歳インタビュー

そぎ落とすことで浮き彫りになる本質を表現した今回のコレクション。カシミアとモヘアのミニドレスは、計算しつくされたシルエットがまるでアートピースのよう。ドレス¥531,300(ロエベ/ロエベ ジャパン クライアントサービス)

こだわりを捨てて、残ったのは
「ありがとう」と「楽しもう」

 カギカッコつきの『梨花』は、圧倒的なプロ意識のことだったのかもしれない。残り2割のこだわりにオトナミューズを残してもらえたことにホッとしつつ、これから見せてくれるであろう、新たな梨花さんのキレイの価値観に期待がふくらむ。一緒に探っていきましょうね、楽しみながら。そう言うとふふっと笑いながら「こだわりって、辞書で引くと『執着』って書かれているんです」と切り出した梨花さん。

「なぜか日本人って『こだわり』って言葉をすごくポジティブに扱うことが多いように感じるんだけれど、辞書的には正直、あまりいい意味じゃないなと感じたんですね。こだわっていると、人にもキツくなっちゃうんです。何かを作っていても、家で家事していても、いちいち人にもすごくキツくなっちゃう。けれどこだわりを取り除いて『〜ぐらい』にすると、感謝が増える。『こんなにちゃんとしてくれて、わあ、なんていい人なんだろう。ありがとう』って思えるの。私、なんだかんだ言って周りにはすごく恵まれていると思うんです。とっても恵まれているのに、私がこだわりが多いことでそんな相手にすらやっぱり、キツくなっちゃう。そんな自分に『このまま死んでいって、いいの?』って思ったんです。だから執着を捨てて。違う捉え方をして、違う景色にして、残りの時間ををちゃんと生きる。そうしたら『ありがとう』と『楽しもう』が残ったんです。だからこれからは、これまでお世話になった方々に感謝して。楽しいことを共有していけたらいいなと思っているんです」

 なんてピースフル。それでも、人生の第二章までこだわり抜いたことについての後悔は一切ない、と梨花さんは断言する。

 「若いころは『明日が見えない』タイプでした。つねに今、今のことで必死で、見えない明日に不安を抱えていた。何があるかも分からないって別に……明日必ずイヤなことがあるとも、限らないのにね。けれど今、そういうのはもうないんです。ある程度大人になったからこそ悩まなくていいもの、必要なものと必要じゃないものがもう、分かる。若いころは悩まなくていいことにもいちいち悩んでいましたからね。それってすごく、ツラいんですよ、疲れちゃう。やめなさいって言われても、悩んじゃうんだからしょうがない。それはファッションだって一緒で、自分に似合うものと似合わないものが分かってきて、断捨離ができるようになるでしょう。似合うものが分かってきて、悩みが減って、時間の使い方が有意義に変わる。それでも年を取るのが楽しいことだとは言いませんが、そういう意味では大人になるって非常に、……よろしいんじゃないかと思いますよ(笑)。もちろん、そもそもこだわりが強くない方もいらっしゃると思います。私みたいにこだわりが強かった人のほうが少ないかもしれませんね。この思考を若いときに持てていたらどれだけいいかなって気がしますが、これが私。こだわり抜いたからこその今、なんです」

 まあ、いつかは死んじゃうんですから楽しくね、とまた笑って。年を取るのは楽しくないよってさっきハッキリ言ったけど、年を取って、大人になって、梨花さんは今すごく楽しんでるじゃんって、この姿を見るとしっかり思ってしまった。私たちは生きている。この命の期限は誰も教えてくれないけれど、期限があることだけは確かで、平等。だったら楽しもうよ!  仲間と共有しながら。これまでの『梨花』にもありがとうの気持ちを抱いて、梨花さんは生きることをエンジョイする黄金の第三章に突入した。改めて50歳おめでとう、私たちのミューズ。創刊した9年前も、今日も、ずっと変わらずあなたは私たちにとってかけがえのない存在です。

梨花 ジバンシィ otona MUSE オトナミューズ 50歳インタビュー

エレガントなツイードジャケットにストリートなデニム。パリとLA、互いの文化を尊重し合う究極のMIXスタイル。ジャケット¥858,000、ブラウス¥309,100、パンツ¥309,100(全てジバンシィ/ジバンシィ ジャパン)

profile_梨花(りんか)。1973年5月21日生まれ。祖母がフランス人のクォーター。1993年よりモデルとして活躍。2010年に結婚、翌年に男児を出産。2015年にハワイにも拠点を持つ。2023年現在もオトナミューズのカバーモデルを務めている。

photo_YUKI KUMAGAI styling_TOMOKO KOJIMA hair_KAZUKI FUJIWARA make-up_SUZUKI
set design_HARUKA KOGURE prop_PROPS NOW model_RINKA

otona MUSE 2023年6月号より

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