【辻 直子さん×本誌編集長】
あの当時をプレイバック。
大人にも響くY2Kの魅力って?
Z世代の若者にとっては20年前のファッションって新鮮! と映るであろう流行の「Y2K」スタイルも、我々ミューズ世代にしてみたら、二十歳前後でリアルに経験したトレンドのリバイバル。懐かしさゆえに、解釈の仕方が難しいのも事実です。さて、どう着る? を人気スタイリスト・辻 直子さんと本誌編集長のプロ2人が当時を振り返りながらディスカッション、その正解が明らかに!
本誌編集長渡辺(以下 W) 2000年代がトレンドとしてファッションストリームにあがったのはこれが初めてですよね。
辻(以下 T) ついに来ました(笑)。
W Z世代の若い子たちには、Y2Kのトレンドは親世代のファッションだから新鮮に映るだろうけど、ミューズ世代にしたら若いころにしていた格好がまた巡ってきちゃったワケで。さあ、どうする? っていう(笑)。
T その当時って、年齢的にはお洋服にまだそんなにお金をかけられなかったと思うし、おしゃれの経験値も浅いはずだから、ほとんど“若さ”という勢いで着てた。そしてそれがあの弾けるような魅力につながっていましたよね。だからリバイバルとはいえ、今に生かせる着こなしテクニックみたいなものもきっとあまりないだろうし。
W 確かに。ピッタピタのチビTに超ローライズのデニム、なんて着こなしをそのまま復活させるのは全く現実的ではない。
T Z世代は当時のスタイルそのままをトレースしただけで可愛くキマるけど、大人はそうもいかなくて、その分解釈も難しい。どう新鮮味を持たせるか、初挑戦の領域なんですよね。
W 今回の企画で辻さんに伺いたかったのは、まさにそこなんです。ミニスカートやボディコンシャスなドレス、今Y2Kブームで注目が集まるアイテムを無理なく着ていらっしゃるのがすごく素敵だなと前から思っていて。
T 嬉しいです。そもそもタイトなシルエットが好きなのもあって、テンション的に惹かれるものはありますね。
W 辻さんの場合は、流行だからというわけではなく、辻さんらしいスタイルとして成立しているから魅力的なんだってことは承知の上で。今回のY2Kブーム、私たちはどうのるのがいいんでしょうか。実際のところ、オトナミューズとしては手を出さずスルーという選択肢もあったんですが。それもね、何だか“ぽくない”かなと。
大人はY2Kの空気感を汲む、
それが最重要事項
T Y2Kのトレンドにおいては、ミューズ世代は空気感を汲んだほうがいいと思うんです。クロップト丈のトップスやミニボトムでいうと、そのまま着るんじゃなく、“短い”っていう大枠だけをトレースする感じ。あとは、ボディコンシャスも80年代のジャンポール・ゴルチエやヴィヴィアン・ウエストウッドみたいに、タイトなポイントをどこかに置くって解釈すれば取り入れやすい。
W シェイプしてましたよね〜! ジャケットも高めの位置からウエストがくびれていた記憶。
T ピタッとフィットするボディコンでないとダメなわけではなくて、腰が内側に少し入っているだけでもいい。ちょっとしたことで一気に見え方が新鮮に変わるから。
W 長らくビッグでルーズなシルエットの流れが続いていますけど、思えばあのころはトップスもコンパクトでしたよね。ヒルトン姉妹やLAセレブが愛用していたジューシー クチュールのベロアジャージ、懐かしい〜!
T そうそう。あのバランスを再現して、トップスを普段よりコンパクトに。何もおなかを出さなくとも、そのくらいの変化で十分かなと思います。
品格はしっかりキープ。
色は“今”のトーンに焦点を
W ケイト・モスがベストを着たこの写真、当時『sweet』の誌面でよく使いました。
T 私も鮮明に記憶しています、このケイト。何てことない感じがまたよくて、みんなこぞってベスト着たよな〜って。
W 「辻直子さんが解釈する大人のY2K」記事で紹介したベストの着こなしもそうだけど、今回提案しているスタイルって30〜40代にも無理なくできますよね?
T かっちりしているとか、きちんと感とか。そういうキレイめな要素を残せば、ミューズ世代にもハマるはず。あとは色使い。色だけは“今”のトーンをピックアップしたほうがいい。
W その当時の色ももちろん可愛いけれど、大人が着たらただ昔っぽく見えるだけってオチになりそう(笑)。
T そうなんです(笑)。色って本当に時代を映すカギ。そのときのコレクションで打ち出された旬のトーンが連鎖してリアルに広まっていくんですよね。大人は特に、侮れません。
W これだけガールズパワーみたいなものを感じるトレンドを提案するって、オトナミューズでもすごく久々なんです。スナップ企画でも基本ワイドパンツが優勢。上半身にもボリュームがあるマニッシュな着こなしが主流だったから。
T ね、相当新鮮だしワクワクします。
W いや〜、新鮮なとこいってもらいたいですよね(笑)。ここ数年は「去年と同じ自分」が続いていたような気がしますし。
T コロナ禍で「洋服、要る?」みたいな空気になったじゃないですか、少し前に。それを踏まえて今年こういうエネルギッシュなトレンドが浮上したことに意味があると思うんですよね。世の中も元気になろうとしているなって。
W ミューズ世代って若いころ、全力でおしゃれしていたことが記憶として残っている世代だから。今の悶々とした気分を晴らすためにも可愛い格好で出かけたい! みたいな前向きな思いにY2Kがバシッとハマるかもしれないですよね。
photograph:AFLO, Getty images, Courtesy of DOLCE&GABBANA, marcellasne_
otonaMUSE 2022年5月号より