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「あ、こいつは策士だなって思いました」期待の新人・坂西未郁監督の初長編映画『メモリィズ』柄本佑インタビュー

「あ、こいつは策士だなって思いました」期待の新人・坂西未郁監督の初長編映画『メモリィズ』柄本佑インタビュー

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「写真を撮る」という行為は、スマホがここまで浸透した令和の今、世代を問わず日常的なものになり過ぎていますが、意図をもって写真を見返すとき――大切な誰かを亡くしたとか、遠く離れた場所にいる誰かを思い出したいとか、姿形が異なるほど昔の自分を探したいとか――「このときこんな気持ちだったな」「このときあの人こんなこと言ってたな」など写真に付随する思い出は、陳腐な言い方になりますが、自分の人生の、他の誰のものとも引き換えられない財産であることに、気づかされることがあります。

 

映画『メモリィズ』はまさに、それぞれに異なる家族の記憶やかけがえのなさのようなものを思い出させてくれる作品。監督は本作が初の⻑編作品となる坂⻄未郁監督。お父様は80年代から90年代にかけて、⽇本の⾳楽シーンにミュージックビデオという分野を定着させた映像ディレクターのひとり、坂⻄伊作さんです。真心ブラザーズの珠玉の名曲「サマーヌード」、JUDY AND MARY「Over Drive」また岡村靖幸の映画「Peach どんなことをしてほしいのぼくに」などを手掛けた方ですが、だから映画を観てみましょうとか、そういうことを言いたいわけではありません。ただ坂⻄未郁監督が高校2年生のときにお父様がお亡くなりになったこと、そのお父様が偉大な存在であることを踏まえて映画を観ても、知らずに観ても、静かにエモーショナルな感情をかき立てられる作品であったことはお伝えしておきます。次に家族が集う機会があれば、写真を撮っておこう、なんて潤んだ瞳でこっそり思ったりも。

 

そんな新人監督の初長編の主演を引き受けたのは、映画、テレビ問わず主演から個性的なバイプレイヤーまで変幻自在に、けれど確実に、観るものを魅了し続ける柄本佑さん。オトナミューズウェブではそんな柄本さんにお話を伺う貴重な機会を得ました。聞き手は映画ライターのよしひろまさみちさんです。

『メモリィズ』
story 大分で暮らす足を骨折した義父・誠(イッセー尾形)を手伝うため、東京から大分へやってきた雄太(柄本佑)。彼は誠が営む写真館の仕事を手伝い、東京では見えなかった家族や生活のありがたみをかみしめる。
監督・脚本:坂西未郁/出演:柄本佑、穂志もえか、香椎由宇、イッセー尾形 ほか/配給:リトルモア/公開:6月12日より、新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
©︎2026LittleMore

――『メモリィズ』は長編初監督の坂西未郁さんの企画ですけど、どういった経緯で出演を決められたんですか?

柄本 坂西さんとは面識がなかったのですが、この企画に入っている孫家邦さん(編集部注:[そん・かほう]さんは日本の映画プロデューサー。株式会社リトル・モアの代表取締役)からお話をいただいたのが一番大きな動機になりました。孫さんとのお付き合いはすごく長くて、僕が10代のころからお世話になっているんです。

――おお、すごい長いご縁ですね。

柄本 そうなんですよ。最初はある映画のオーディションでお会いしたんですが、そこからプライベートでも食事に一緒に行ったりする仲になりまして。

――お仕事よりもプライベートのお付き合い?

柄本 どちらかというと(笑)。きちんとお話したのはオーディションが最初でしたけど、前から面識があったんですよね。原田芳雄さんが毎年年末に餅つき大会をしていて、そこにはたくさんの映画関係者がいらっしゃってたんですけど、僕も子どものころは毎年行っていたんです。そこにも孫さんがいらしてた。そんな関係があったんですよね。

――孫さんにとっては「あのときのお子さんが」って感じですね(笑)。

柄本 おそらくそうですよね。それで友だちのようになってからは、作品でちょこちょこ関わるようになりました。たとえば『まほろ駅前多田便利軒』(11)や、その前の『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(10)とか、あれらも孫さんが作られていたんです。そんなつながりがあったので、彼からこの作品の主演でお声をかけていただいたんです。

――うれしいですよね、長いお付き合いの方からそういうお話いただくのって。

柄本 いや、まさか主演でお声かけいただくとは思っていなかったので、すごくびっくりしましたし、めちゃくちゃ嬉しかったですね。それが一番の出演動機になったと思います。

――脚本はその後で?

柄本 そうです。出演を決めてから本をいただきましたが、読んでみたら僕の好きなタイプの本で。

――というと。

柄本 何かことさらに説明が多くなく、それでいて物語にはきちんとした動きがあって味わいが深い。余白がたくさんある本でした。これ、普段いろいろな作品に接してきて、なかなか出会うことがないタイプの本なんですよ。しかも、妙な色気も感じられる作品で、読んでいてワクワクしました。

――そのときには共演者が決まってました?

柄本 いえ、まだでした。僕だけ。

――あ、だとすると、義父役がイッセーさんに決まったときはびっくりだったのでは?

柄本 ほんと。誰がこの役やられるんだろう、って思っていたところ、イッセー尾形さんに決まったと聞いてびっくりしました。イッセーさんとはほぼ初対面だったので。

――意外……。プライベートで会ってそうなイメージでした。

柄本 いえいえ。父(柄本明)はイッセーさんと同じ界隈にいたので面識はあるらしいんですが、僕は会ったことがなかったんですよ。それで今回は「はじめまして」から始まりました。

――初共演はいかがでした?

柄本 義父・誠のキャラクター通り、という感じでした。イッセーさんもすごくシャイでいて、チャーミングなんですよ。めちゃくちゃぴったりハマったキャスティングでしたね。誠さんも穂志もえかさんが演じた雄太の妻も、難しい役だと思うんですよ。実の娘は東京にいて電話で会話するだけで、実際に誠さんに対面してお世話するのは雄太。

――それをいうなら雄太も難しい役ですよね。義理の親子関係で会話もまばらで、ちょっとだけ距離を出しながら、それでいて仲はいい。踏み込んじゃいけないところがすごく多い感じで。

柄本 じつは雄太はそれほど難しい印象がなかったんですよ。なんせあの人、ちょっと天然で、ずぶとい感じですから。だって、義父の世話とはいえ、知らない土地にいって彼の仕事を手伝うだけじゃなく、けっこうずかずかと写真を撮りまくってましたから。

――たしかにー。しかも、誠さんとの会話が超ざっくり。

柄本 そうなんです。全てざっくりしてるんです。こういう役を演じる機会はそうそうないから、ちょっとおもしろがってお芝居していました。でもね、主演でお話いただいておいて言うのも恐縮ですが、こういう役だからこそオーディションでこれからの方にチャンスを与えた方がいいのでは? とも思ったりしたんですよね。僕は25年くらいのキャリアがあるから、それなりに染みついてしまったものがあるんですけど、まっさらで何も分からないまま歩み続けるみたいな新人の方のほうが雄太に向いているんじゃないか、っていうことは思ってしまいました。

――ということは、撮影中にちょっと悩みました?

柄本 悩むほどではなかったのですが、とはいえ染みついたものを一度全部排除しないと、ということは思いました。そういった意味では雄太役は俳優の原点に立ち返る機会になったなと思っています。

――監督も務めた経験がある柄本さんからみて、初監督を務めた坂西さんはいかがでしたか?

柄本 いやいや……僕は俳優のお仕事メインですから。とはいえ、坂西さんとも全くご縁がなかったわけでもなかったのがびっくりでしたね。じつは彼、僕の中学・高校の後輩に当たるんですよ。

――え、まさかの。

柄本 そう。だから初めて接する監督なのに、「後輩頑張れ!」っていう気持ちが強くて(笑)。しかも、すごくテキパキしてて、ちょっと時間があいたらすぐに素材映像の撮影をしていたり。何も不安を感じさせない現場でした。

――しかも、異様に長尺が流行っているなか、100分を切ったコンパクトな本編も、初長編監督としてはすごいですよね。

柄本 すごいと思いますよ。初めて長編を作るとなったら、思いがあるから切るに切れないことってあると思うんですが、撮影中から虎視眈々とショットを狙っていたので「あ、こいつは策士だな」って思いましたもん。

――普通、初長編で柄本さんが主演でさらにイッセーさんも出演なんて、落ち着けないと思いますよ。

柄本 いやいやいや(笑)。多分ですけど、これも孫さんの計算があると思うんですよね。僕に最初に声がけしていただいたのも、イッセーさんのキャスティングもそうで、キャリアのある役者を最初にお願いするのがいい、と。以前聞いたことがある話なんですが、田中絹代さんが初めて映画を撮るときに、成瀬巳喜男監督に相談したそうなんですよ。田中さんはオーディションで素人さんを選んで主演を決めて演技レッスンをしながらやりたい、と思っていたそうなんですが、それを聞いた成瀬監督がめちゃくちゃ怒ったんですって。「お前、新人監督だろ。ベテランの俳優さんを集めてお前が勉強しろ」って。

――あ、たしかに。大女優ですけど、監督としては新人状態ですものね。

柄本 それを聞いた田中さんはすごく不機嫌になったそうなんですが(笑)、でも結局その作品『恋文』(53)は、森雅之さんや宇野重吉さんなど、ベテランが出演されたんですよ。

――それで日本映画の女性監督の道が開けましたもんね。成瀬監督すごい。

柄本 孫さんは似たようなこと考えてたんだと思っているんです。新人監督を学ばせるにはベテラン俳優。そうすると、芝居をつけるにしても俳優のほうがわかっているから、監督として乗り越えるべき壁みたいなものがすぐ分かるし、乗り越えたときに新しい何かが起きる楽しみもありますもんね。

――いや、たしかに観ていて新人監督と思えない安定感がありましたもの。

柄本 あとね、これ全部フィルムで撮ってるんですよ。

――え!

柄本 そうなんです。僕も久しぶり。フィルムだと何度も同じカットを撮影できないし、気合の入り方違います。

――タイトルにもなっているメモリー、思い出ですが、劇中の雄太はひたすらスマホで撮影しまくって記憶をとどめていますよね。柄本さんもそういうことされます?

柄本 フィルムのカメラで撮影しますね。スマホはあまり使いません。だから、雄太のように直感的に「あ、これ!」っていう感じで眼の前のことに夢中になるのではなく、被写体と撮影自体に夢中になってます。ただ、そうすると途端に面白くなくなるんですよ。作り込んでる感じで。なので、記憶、メモリーは脳内の記憶のほうが大事って考えてます。

――なんでも撮るっていう雄太は今どきの感じですよね。

柄本 そうそう。ごはんでもなんでも撮る感じで。といっても、雄太はSNSにはりついているわけでもないんですが(笑)。

――そこが不思議なところなんですよね。なんでも撮る人って、だいたい即座にSNSにアップしてますから。雄太は本当に記憶のために写真を撮ってる。

柄本 だからこそこの作品に意味があるんだと思います。こういう世界観で記録していく人もいるんだよ、っていうことを見せていますし、それとともに家族の大事さ、対面しているものや人にどれだけの愛情を注ぎ込めるか、とかを考えるきっかけになると思うんです。

――今回の思い出は大分県竹田市になりましたね。

柄本 すごく寒い時期に撮影したんですけど、いいところですよね。大分県はちょっとだけゆかりがありまして。10代のころ、湯布院映画祭の実行委員をさせていただいたりしたこともあり、それ以降、自分の作品を映画祭で呼んでいただいたときは必ず訪れているんですよ。あ、そうそう。この作品で滞在しているとき、撮休の日がたまたま出演作の『ゆきてかへらぬ』初日だったので、劇場に観に行ったんですが、そのときたまたま映画祭の実行委員長とばったり。

――ゆかりがある場所での撮影だったんですねー。

柄本 竹田市は初めてでしたが、大分ってすごくのんびりしていて、ごはんもおいしくて、みんなやさしくて。すごくいいですよね。

――あと、温泉天国。

柄本 いくつか行きましたよ。炭酸泉のあるところとか。

――川湯温泉かな。あそこ冬場だと寒すぎません?

柄本 そうそう。すっごく寒くてずっとお湯に浸かってました(笑)。あと、撮休のときにカメラマンさんたちとチームを組んで、めちゃくちゃ秘湯に行きましたよ。

――これはいい季節のキャンペーンで大分に行ったらもう一度。

柄本 いやほんと。一度といわず何度でも行きたいですね。

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  • 誰がこの役やられるんだろう、って思っていたところ、イッセー尾形さんに決まったと聞いてびっくりしました。イッセーさんとはほぼ初対面だったので。
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  • とはいえ、坂西さんとも全くご縁がなかったわけでもなかったのがびっくりでしたね。じつは彼、僕の中学・高校の後輩に当たるんですよ。
  • だからこそこの作品に意味があるんだと思います。こういう世界観で記録していく人もいるんだよ、っていうことを見せていますし、それとともに家族の大事さ、対面しているものや人にどれだけの愛情を注ぎ込めるか、とかを考えるきっかけになると思うんです。
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Interview & text_MASAMICHI YOSHIHIRO
Photograph_KAZUYUKI EBISAWA[MAKIURA OFFICE]
Hair & Make-up_ KANAKO HOSHINO
Styling_ MICHIO HAYASHI

ジャケット¥403,700、ニットポロ¥201,300、デニムパンツ¥190,300、中にはいたパンツ¥182,600、シューズ¥143,000(全てメゾン マルジェラ)

マルジェラ ジャパン クライアントサービス︎ TEL0120-934-779

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1972年、東京都新宿区生まれ。大学在学中からゲイ雑誌『バディ』編集部で勤め始める。卒業後、音楽誌、情報誌、女性誌などの編集部を経て独立。『sweet』、『otona MUSE』(共に宝島社)で編集・執筆のほか、『an・an』(マガジンハウス)、『家の光』(家の光)、『with』(講談社)、『J:COMマガジン』(J:COM)など多くの媒体で、インタビューやレビュー記事を連載。テレビ、ラジオ、ウェブなどでも映画紹介をするほか、イベントでの解説、MCも。ゴールデングローブ賞国際投票者、日本アカデミー賞会員、日本映画ペンクラブ会員。

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