アカデミー賞ノミネート監督・山崎エマはなぜ『それでも息子を日本の小学校に通わせたい』のか?【著者インタビュー】
大多数の先生方は子どもに対してすごく真剣に取り組んでくださっている
山崎 短編版がオスカー賞候補になったとき、ニューヨーク・タイムズの見出しで、「レジリエンス」って言葉がついたんですが、これが世界中でバズっていて。意味は「苦境に直面したときに、元の健康的な状態へ戻す回復力」みたいなことなんですが、これ、世界中の親が子どもに植え付けたい特性ナンバーワンなんですよ。でもこれって個人差がありますし、強さっていってもいろいろな種類があるから、難しいんですよね。理想としては、安全に愛されている関係性がある環境下で、何かできないことに直面したときにそれを乗り越える練習を、なんでもいいからすることなんですよね。跳び箱を一段あげられるようになるとか、楽器を弾けるようになるとか、そういうのでもいいと思うんですが、それが大人になったとき、困難に向き合える力をためていくことにつながるんだと思うんです。それでいうと、私が小学校時代、運動会で人間ピラミッドとかいろいろやったことに対して、頑張った先に見える景色とか、練習を重ねるうちに見えてくることとか、それを知ることができたことが大きいと思っています。それを知っているから、今にもつながっていると思っているんですよ。
――『甲子園〜』『小学校〜』と本を通して気づかれたことですよね。
山崎 はい。学校のハードウェアの部分って昭和からぜんぜん変わっていないんですよね。体育館はこう、教室はこう、ってことは国で決められているから、何十校も取材のお願いで学校を訪れるたびにデジャブのような感覚に陥るほどでした。でも、それも日本っぽい。形から入るじゃないですか、日本って。ただ、中身はそれぞれ違うんですよ。私の小学校時代は、先生に褒めてもらうためだけにがんばる、みたいなところもあって、それはそれで日本っぽい目的意識だとは思うんですけど、ただそれによって自信をつけて自己肯定感を高めることもできるようになったのが今の現場だなと思っています。今は小学校でも叱るだけじゃなくてちゃんと褒めますし、それが子どもたちにうまく作用している、と。こういったシステムが、海外の自由な教育とうまく相互作用していくことで、バランスがもっとよくなっていくんじゃないかな。
――ですよねー。アメリカの友人、ゴリッゴリに自己肯定感高いのがうらやましくもあるんですけど、その反面、自信がありすぎて謙虚さがちょいと少なく感じることもままありますから。自由な教育は100%いいことか、って言われるとちょっと違うのかな、と思ってしまう。そこが日本人の自信のなさにつながる、という方もいると思うんですけど、強さにも変えることができるんじゃない? って、本を読んで思いました。
山崎 そうそう。いいとこどり、じゃないですけど、あちこちの教育でいいところをうまく取り入れてバランスをとると、もっといい時代が来るような気がするんですよね。次世代がもっと豊かになるためにすべきことって、そこにあるんじゃないでしょうか。

――そのためにはまず、『小学校〜』とこの本で、親世代が経験した学校教育と、今のそれが違うことを知ってもらわないと。
山崎 そうそう。親にならないと分からないどころか、親になっても学校の現場は分からないですから。しかも、学校で起きることが報道されるとしたら、だいたいネガティブなことや課題ばかりですからね。たしかに、悪いことは悪いんですけど、それは一部に過ぎないですし、大多数の先生方は子どもに対してすごく真剣に取り組んでくださっていますから。しかも、今の日本の学校教員は、時間も人数も足りていない中でマックスのことをしてくださっているでしょ。そこを補うために、親も動かないといけないと割り切ったほうがいいとも思っているんですよね。
――あ、それいいですね。PTAとはまた違う流れで。
山崎 たとえばこれからはAIを活用した教育が始まるらしいんですけど、補えるところはどんどん活用すればいいと思うんですよ。個人のスキルを伸ばすことなんかは家でやって、学校というスペシャルな場所でしかできないことを学校に担っていただく。そういうことも、本を読んだ方同士で語り合ってもらいたいんですよね。

Interview & Text_MASAMICHI YOSHIHIRO
Photograph_KAZUYUKI EBISAWA[MAKIURA OFFICE]
WRITER
1972年、東京都新宿区生まれ。大学在学中からゲイ雑誌『バディ』編集部で勤め始める。卒業後、音楽誌、情報誌、女性誌などの編集部を経て独立。『sweet』、『otona MUSE』(共に宝島社)で編集・執筆のほか、『an・an』(マガジンハウス)、『家の光』(家の光)、『with』(講談社)、『J:COMマガジン』(J:COM)など多くの媒体で、インタビューやレビュー記事を連載。テレビ、ラジオ、ウェブなどでも映画紹介をするほか、イベントでの解説、MCも。ゴールデングローブ賞国際投票者、日本アカデミー賞会員、日本映画ペンクラブ会員。










