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【今、私たちどう生きる? 大人の‶もやもや″殻破り】VOL.01写真家・黄瀬麻以さん 

NY 黄瀬麻衣 MAIKISE
気づけばもう1月も終わる。そう、びっくりするくらいのスピードで1年が過ぎ去っていくのを、早くももう感じている。そんな方、読者の皆さんにもいらっしゃるはず。「年をとるにつれ、時間の流れは速く感じるものよ」と言われてきたけれど、下手したら20代半ば過ぎから、電光石火の如く40代になってしまったように思う今日この頃。今年の目標リストを紙に書きだすという目標すら達成できていない自分を含め、まわりの30代後半から40代半ばあたり、まさにミューズ世代の女子たちに漂うのは、「このまま歳をとっていっていいのか自分」というもやもやした思い――。これがまたやっかいで、答えは人それぞれだから、どんなに寄り集まって飲んでみても、結局は自分が納得しないと前に進めない。何歳になればこのやっかいな“もやもや期”を抜けられます!という確約なんてなく、人間は考える葦ゆえに、悩むは一生の課題なんて哲学者を気取ってみても、やっぱり早くすっきり楽しく生きたいって思う自分もいる。そんな‟もやもや期”の皆さん、一緒にいろいろな人の話を聞きにいってみませんか? ゆる~くお付き合いいただけたら、ね!

初回は写真家、黄瀬麻以さん
「行きたいところを探す能力や好奇心が、落ちないようにしていたい」

NY 黄瀬麻衣 MAIKISE マンハッタン

©MAI KISE

編集T カメラマンにこんなこと言うのもなんですが、やっぱり写真がうまいよねぇ(笑)。いや~、私もNYには何回も行ってますけど、こんな風に街も人も撮れないなぁ。感情がのってるというのか、そのときの空気の湿度や匂いまで共感させられる……。才能ってこういうことなのかなって思っちゃう。この1カ月半にわたるNYとポートランドの旅、楽しかったですか? 黄瀬 あはは(笑)! ありがとうございます。旅は楽しかったかと聞かれると、今回は自分の中では旅行ではなかったので、どうでしょう。 編集T おや。と、いいますと? 黄瀬 ことの発端は、NYに住んでいる日本人の友だちからの「子どもを産んで里帰りに帰国するから、しばらくNYの家を使わない?」って連絡で、「じゃあ、東京でわたしの車を使う?」みたいなやりとりからなんですが。仕事を2カ月近く休むことになってでも行ってみようと思った理由は、今、海外がどうなってるのかなって、短期間でも住んでみてパンデミック後のNYがどれだけ日本と違うのかが知りたかったから。内に籠らざるを得なかった2年のうちに、外に出ていく力(行きたいところを探す能力、好奇心、体力などなど)が落ちている気がしてならなかったし、どういう経済変化があって、街の人はどう暮らしているのか、自分の目で見て体感したかった。 編集T あぁ、そうだったんですね。 黄瀬 そうなんです。私にとって旅行はバカンスの意味合いが強いというか、純粋に楽しんで、リラックスする時間っていうイメージですが、今回の滞在はどちらかというと取材のような感覚でした。誰に何を頼まれたわけでもないんですけどね(笑)。
NY 黄瀬麻衣 MAIKISE

「語学学校に通い、友だちとごはんを食べ、外へ出かけない日はNYを舞台にした好きなコメディードラマ『Seinfeld』や、他にもNYを題材にした作品を語学勉強も兼ねて観て過ごしていました」©MAI KISE

「upstateにある美術館Dia Beacon。グランドセントラル駅からハドソン川に沿って北上する電車に2時間弱程揺られながら向かいます。のんびりした空気が最高」©MAI KISE

編集T どうりで、のんびりするには長いなって、実はちょっと思ってました(笑)。あっちでは何をしていたの? 黄瀬 まずNYに1カ月いた間は、語学学校に通って、美術館を巡って、いろいろな人を紹介してもらって会って、好奇心が赴くままにインタビュアーみたいなことをしてました(笑)。NYはやっぱり不思議なエネルギーのある場所。パンデミックのいろいろな波を呑み込んで、さらにエネルギッシュに変化していっている刺激的な空気を感じる一方で、去年の2月から物価がグンと上がるなどインフレが止らなく、家賃もびっくりするくらい高かった。それだけが理由じゃないかもしれないですが、25年NYに住んでいたけどもう日本に帰るって方もいました。 編集T うわぁ。 黄瀬 思っていたような感じじゃなかった一方で、場所を固定せず仕事をするビジョンは前よりもクリアになった気もします。場所にとらわれずに働けるチャンスも増えたし、それに日本以上にエージェンシーにも属さず本当に自分で全部やるフリーランスの子も多いみたいで、フットワーク軽く動けそうだなと思いました。 編集T 確かに、ここ2、3年で日本国内でも住む場所=通勤県内という考え方や、‟社員”という雇用形態にこだわらず、フリーランスとして活躍する方がグッと増えましたよね。どう働くか、今の場所でこのままのやり方でいいのかって悩む人は、パンデミック後の今も変わらず増えていっている。だからNYで日本人である黄瀬さんがそういう可能性を感じるって、いい話だな。 黄瀬 そう! 今、円安・物価高騰・低賃金と、世界から見て全然元気がなさそうな日本ですが、人材もプロダクトもすごくクオリティが高いなと改めて思った。もう長年NYでコーディネーター兼プロデューサーをしている日本人の友人も言っていたんですが、日本人は日本人同士で完結しがちというか、才能の売り出し方、アピールの仕方がさらにうまくなれば、思ってもみない可能性がもっとたくさんあるのよねって。それを自分の人生と直結して感じられたのが、今回の一番の収穫かも。
ポートランド 黄瀬麻衣 MAIKISE

「ポートランドでは、街から1時間半ほどドライブしてSilver Falls state parkへ。都会からほんの数分のドライブで大自然の中。本当に素晴らしい。そのためアウトドア用品のお店も充実してます。湿度を保った森を歩くとなんとも言われぬ生きた心地いっぱいに。人間も有機物だということをすごくよく感じます」©MAI KISE

ポートランド 黄瀬麻衣 MAIKISE

「若干の不安(迷わないか)のなか歩いていくと、とてつもない水が落ちる音。目の前に現れた滝に、震えるーーーーー!!!! 怖いほどの素晴らしい景色。アメリカ大陸の自然っていつも壮大すぎて、日本で育った私にはスケール感がたまに分からなくなり不思議な感覚に陥るんですよね。今回も現実か夢か……という感じに」©MAI KISE

編集T 出会ってもう10年以上経つけど、アシスタントをしていたときから、自分でアクションを起こして道を開いていくタイプよね。常に自分に焦燥感を持って生きているというか。そういうところ、本当にすごいと思う。 黄瀬 どんどん変化していく世の中と上手に付き合える自分でいたいとは思っています。 編集T そうしたくても、キャリアが長くなるほど腰が重い。現状に閉塞感を覚える大人の女性って多いと思う。 黄瀬 数年ですが会社員をしていたこともあるから、いろいろ考えると動けなくなっちゃう気持ちも分かりますよ。ただ、今ってあんまりルールがなくて、よくも悪くも保証されないじゃないですか。だから思うままに動いたほうが、答えが見つかるんじゃないかな。 編集T 動けないときって、将来とか安定とかいろいろ考え過ぎて、これじゃないといけないって狭い枠を自分で自分にはめてる感、ありますよね。 黄瀬 そうそう。でも、そもそも今だって、予想をしていた世の中じゃ全然ないしね(笑)。私はカメラマンですが、そこから派生するものもいろいろやってみたいし、その結果、将来的にぜんぜん違う仕事にたどり着いても、そっちに道が開けたのならあり! いろいろやれたほうが人生楽しいなって思ってます。 編集T そのマインド、好きだな。そうだよね。働き方も肩書きも、もっと自由に考えることがベーシックになっているのを受け入れる必要があるのかも。私たちの世代って、上の世代(50歳オーバーくらいの方々)が自由でエネルギッシュじゃないですか。その人たちが作ってきたものや成功へのセオリーが明確過ぎて、どうしても倣う姿勢が抜けないというか、必要のない部分まで引っ張られてしまう。 黄瀬 それでいて、下からはもう宇宙人みたいなMZ世代が強烈な個性を放って、世の中の流れを変えてきてる(笑)。大変ですよ。 編集T 本当に(笑)! 凝り固まったいらない思考は脱ぎ捨てて、軽やかでいないとなのね。 黄瀬 だからこそ、動いてみるのかもしれないですね、私は。今は「個」の時代だと思っていて、実際に自分が仕事をするときも所属する「会社」よりも「その人=個」を意識しています。今となってはフリーランスの方が絶対に自由だとも思わない。自己発信できるツールがたくさんあるから、どこにいたって気になる「人=個」は気になるんですよ。仕事が取ってこれる有能な「個」がいることは会社にとっても有益だから、そこを大事にして生かすべきだし、「個」も会社に所属していることををうまく使ってこそ、できる仕事の幅が広がると思うから。最終的には、そういう会社に残った優秀な「個」の方々が、日本の会社に変革を起こして、いろいろな意味でもっと働きやすくなればいいなと思うんですけど。 編集T そんなことを考えていたりするのね、面白いなぁ。また話そうね。
ポートランド 黄瀬麻衣 MAIKISE

©MAI KISE

PROFILE 黄瀬麻以(きせ・まい)。1984年京都生まれ。フリーランスカメラマンとして東京を拠点に、雑誌、広告などで活動中。2014年からの約2年をサンフランシスコとポートランドで過ごす。インスタ@maikise_photo
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