「人さらいのように。無理やり仕事してもらいました」【西川美和監督・坂東龍汰さん】映画「わたしの知らない子どもたち」対談
――仕込み、めちゃくちゃ大変そう。
西川 そこは助監督たちに大感謝です。がんばって資料をたくさん用意してくれて、みんなで勉強会をやったんです。私としては、役に対しての気持ちの持ち方というよりは、自分が演じる役の設定がなんであるかをわかってほしかった。だって、(主演の小八重)葵美ちゃんだって「疎開」の意味を知らなかったんですもん。
坂東 戦争があったことは知ってても、詳しくは知らないでしょうね。
――え、小八重さんは撮影当時小学校6年生ですよね。今の小学校高学年の歴史カリキュラムって……。
西川 6年生の3学期にようやく近現代史を習うんですって。それなら知らなくて当然なんですよ。だから坂東さんみたいに身近に戦争体験者がいる、とか、私たち世代のように親が経験しているとか、そういったことがない限り、知る機会はことごとく少なくなっているということですね。とくに今回の子役はみな、関東近県に住む子が多かったので、公立の学校では平和教育のようなカリキュラムもないし、関東大震災と東京大空襲も、教科書で教わる程度ですよね。

――それは勉強会必須ですよね。戦争孤児や傷痍軍人の話なんて、絶対に知らないでしょうし。
西川 そうなんです。セリフを覚えればそれでよし、というわけではないから、その役は戦争のときにどういう経験をして、子どもたちはどういう目にあっていたのかを学ぶ会。
坂東 そこまでやってたんですね。
――大人の役者は参加してなかった?
西川 はい。大人の俳優には資料を配って、「この役やるんだから分かってますよね?」という感じで。
――圧!(笑)
西川 (笑)。大人の俳優たちは自分で準備してくれますし、それこそ役所(広司)さんはかなり早い段階で「船を漕ぐ練習をさせてください」っておっしゃってましたから。自分にとって何が必要かということを大人は判断できるけど、子どもは口では「分かった」と言っても真意は分かってないはずなので、そこを補いました。
坂東 たしかに「分かった!」ってみんな言いますよね。何度か「いや、ほんとに分かってんのかな?」って思いましたもん。
西川 そうなんですよね。だから、子どもに役を演じてもらうということは、こちらが普段の数倍以上は準備が必要なんですよ。しかも、私は演技者じゃないから現場で演技を教えることはできないですし。どうやって感情の波を体に現すかとか、そういう技術的なことは演技経験をした人にしか教えられない。だから、大人の俳優がそれとなくヒントを出してくれることによって、子どもたちには響くみたいなんですよ。監督があれやれ、これやれ、っていうよりも、先輩俳優から「こんなふうに思ってみて」「こう動いてみたら」って言われたほうがずっと説得力があるみたい。
――坂東さんは子どもたち相手に芝居をしてみていかがでしたか?
坂東 僕が撮影に入ったのは、役所さんが演じる甚平が船を出すシーンだったんですが、もうそのころには小八重さんが慣れてきてたんですよね。芝居のスイッチの入れ方みたいなことはもう大丈夫、っていうのを感じました。それこそ監督がおっしゃる「大人の役者はやるべきことを理解して」っていうのと同じで、小八重さんは琴子として現場にいることを覚えてる、っていう感じ。そこにいきつくまで、監督は相当苦労されたんだと思いますけど。
西川 はい。苦労しました(笑)。でも、葵美ちゃんは大丈夫なの。彼女は天性のものがある。とにかく集中力がすごいし、坂東さんが入られた撮影中盤のころには役を掴んでましたね。あのシーンは海に入って衣装が濡れるから、ワンテイクで撮りきらないといけなかったんですけど、それもやりきりましたから。

坂東 衣装が水を吸ってめちゃくちゃ重かったんですよ。役所さんなんて溺れかけてるから、一緒に引き上げようとしたんですが、僕のコートが重すぎて無理(笑)。
――そして全員が溺れかける(笑)。
西川 そう(笑)。だから、葵美ちゃんはカメラ回る前に「絶対に一回で決める!」って言ってましたよ。
坂東 すごい……。しかも、まあまあ深いところまでいきましたよね。
西川 そうなんですよね。あのときは俳優もだけど、私たちスタッフもみんな緊張してましたよ。誰も転んではならぬ! と(笑)。
――そういうときも、坂東さんが緩衝役になってくれてたんですよね。子役とのセッションには欠かせない。
西川 ほんとにそう思います。坂東さんも俳優なんですけど、俳優とカメラの間にスタッフが入ってる感覚。私やスタッフだけでなく俳優同士の意思疎通ができているから、坂東さんの目を見るとこちらがいいたいことやりたいことは「分かってます」って安心して任せられるんですよ。
――めちゃお気に入りじゃないですか!
西川 私だけじゃなくてスタッフもみんなそう思ってますし、また一緒にやりたいですね。
――西川作品を熱望してた坂東さんからすると?
坂東 いや、ほんとスケジュールちょっと無茶してでも出られてよかったです。

Interview & Text_MASAMICHI YOSHIHIRO
Photograph_KAZUYUKI EBISAWA[MAKIURA OFFICE]
Styling_YASUKA LEE(坂東さん)
■坂東さん衣装クレジット
ジャケット¥69,300(kiivu)、中のトップス¥27,500(PIPPIOLINO)、パンツ¥38,500(saby)、シューズ¥85,800(OLDTOWSON)、その他スタイリスト私物
問い合わせ先
BLANDET▲Tokyo
miyamoto@miyamotospice.com
バーニーズ ニューヨーク
050-3615-3600
evolve
03-6823-5074
OLDTOWSON
0428-13-4934
WRITER
1972年、東京都新宿区生まれ。大学在学中からゲイ雑誌『バディ』編集部で勤め始める。卒業後、音楽誌、情報誌、女性誌などの編集部を経て独立。『sweet』、『otona MUSE』(共に宝島社)で編集・執筆のほか、『an・an』(マガジンハウス)、『家の光』(家の光)、『with』(講談社)、『J:COMマガジン』(J:COM)など多くの媒体で、インタビューやレビュー記事を連載。テレビ、ラジオ、ウェブなどでも映画紹介をするほか、イベントでの解説、MCも。ゴールデングローブ賞国際投票者、日本アカデミー賞会員、日本映画ペンクラブ会員。
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